最近、近所で歯科医院が2軒、入れ替わりました。

1軒目は、前の院長が閉院したあと、同じ場所をリフォームして、別の先生が新しく開業しました。 買ったのか、引き継いだのか。外からは分かりません。

2軒目は、小児歯科だった医院です。 ほかの医療法人のグループに入り、名前を変えて、小児歯科ではなく一般の歯科として診療を始めました。

数字は分かりません。でも傍から見ると、どちらも出口としては成功だと思います。 医院が残り、患者さんが通える場所が残ったからです。 今日は、この「出口」の話をします。

この記事の結論

医院の出口は、いくつありますか。
①身内に継ぐ ②他人に譲る ③自分で閉じるの3つだけです。どれを選ぶかで、最後に手元に残るお金が大きく変わります。
なぜ差がつくのですか。
譲る出口は、対価が入ってきます。閉じる出口は、原状回復・リースの残り・借入の返済・スタッフ・カルテの保存と、お金と手間が出ていきます。
いつ、何から始めればいいですか。
まず「何歳で、どの出口か」を決めることです。譲れる医院になるには、決算書と数字を整えるのに年単位かかります。閉じるにしても、計画して閉じれば手残りは守れます。

出口で、最後に残るお金が変わります

医院の出口は3つしかありません。 身内に継ぐ、他人に譲る、自分で閉じる。 3つの出口それぞれの手順と、持分のあるなしの違いは、 医療法人の出口|身内に継ぐ・他人に譲る・自分で閉じるにまとめました。

この記事で見たいのは、お金の向きです。 同じ医院でも、譲るか閉じるかで、お金が入ってくるのか出ていくのかが逆になります。

 譲る出口(第三者に引き継ぐ)閉じる出口(閉院)
設備・内装そのまま引き継いでもらえる。対価が付くこともある処分する。売れないものは、捨てるのにお金がかかる
テナント賃貸契約を引き継げれば、原状回復は買い手側の話になる(大家さんの同意が要る)原状回復して明け渡す
リース引き継ぎをリース会社と相談できる途中でやめると、残りの分をまとめて払う契約が多い
借入譲渡の対価や退職金から返す手元のお金から返す
スタッフ引き続き雇ってもらえることがある辞めてもらう。30日前の予告か、予告手当が要る
カルテ誰がどこで保存するか、取り決める閉じたあとも5年間の保存が残る
院長の受け取り譲渡の対価(個人)/退職金・持分の代金(法人)退職金(法人)/小規模企業共済(個人)

左の列は、手元にお金が入る話です。 右の列は、手元からお金が出る話です。

近所の2軒は、少なくとも「同じ場所で、医院として続いている」。 つまり右の列のいくつかは、避けられた可能性が高いのです。

1軒目の裏で、よくあること|個人の医院を譲る

ここからは、2軒で実際に何があったかではありません。 こういう入れ替わりのときに、よくあるパターンです。

閉院した場所に、別の先生が開業する。 個人の医院なら、よくあるのが事業の譲渡です。 法人ではないので、株や持分を売ることはできません。 医院の中身を、一つずつ売る形になります。

譲るもの中身
居抜きの設備ユニット、内装、レントゲンなど。そのまま使えれば、買い手は開業費を抑えられます
営業権患者さん、スタッフ、地域での評判。目に見えない「のれん」です
賃貸契約大家さんの同意を得て、借り手を替えます

買った先生は、自分の名前で、新しく診療所を開くことになります。 開設の届出も、保険医療機関の指定も、新しく取り直します。 外から見ると「閉院して、新しく開業した」に見えるのは、このためです。

個人で譲ると、税金は所得税です

設備や営業権を売った利益は、原則として総合課税の譲渡所得です。 ほかの所得と合算されるので、利益が大きいと税率も上がります。
医業のように本人の資格と結びつく事業では、対価の中身によって扱いが分かれることもあります。 契約の前に、何にいくら払ってもらうのかを分けておくことが大事です。

2軒目の裏で、よくあること|医療法人がグループに入る

2軒目は「グループに入った」ように見えます。 医療法人の場合、建物も設備もスタッフも法人のまま、運営する人だけが替わる形があります。

形何が動くか譲る院長の受け取り方
持分なしの法人社員と理事が、買い手側の人に入れ替わる。理事長も交代理事長退職金が中心
持分ありの法人出資持分を、買い手側に譲る持分の譲渡代金+退職金
合併買い手の医療法人と一つになる。都道府県の認可が要る退職金など
事業の譲渡診療所だけを買い手の法人に移し、自分の法人は畳む法人に入った対価を、退職金などで受け取る

受け取り方で、税金がまったく違います。

持分の譲渡代金は、株を売ったときと同じ扱いで、ほかの所得と分けて20%(復興特別所得税を含めて20.315%)です。 退職金は退職所得になり、勤続年数に応じた控除を引いたうえで、原則その半分にだけ税金がかかります。 ただし役員としての勤続が5年以下だと、半分にはなりません。 詳しくは医療法人の理事長退職金をご覧ください。

診療科目を変えて、再出発できる

2軒目で私が面白いと思ったのは、小児歯科をやめて、一般の歯科になったことです。

医院の看板は、院長その人と強く結びついています。 でも場所・設備・スタッフ・患者さんの流れは、院長が替わっても残ります。 買い手は、その土台の上で、自分の得意な診療に組み替えられます。

医療法人なら、医院の名前は定款に書いてあるので、変えるには定款変更の認可が要ります。 名前や診療科目を変えたら、保健所への届出もします。 手間はかかりますが、ゼロから開業するより早く、確実です。 譲る側から見れば、いまの診療の形のままでなくても、買い手は見つかりうるということです。

譲れる医院・継げる医院の条件

では、どんな医院なら譲れるのか。 買い手の目線で見ると、だいたい次の5つです。

 買い手が見るところ
①患者数と自費の推移が、数年分、数字で分かる
②決算書がきれい。私的な経費が混ざっていない。役員貸付金が残っていない
③スタッフが残ってくれる。院長がいなくても受付と診療補助が回る
④設備の状態。いつ買ったか、リースの残りはいくらか
⑤立地と賃貸契約。契約の残りの期間、借り手を替えられるか

①と②は、日々の経理そのものです。 毎月の試算表が締まっていない医院は、数字を出すところで止まります。 毎月の試算表と決算書を、人に見せられる形にしておくことです。

私はよく、出口をマラソンのゴールにたとえます。 ゴールが分からないと、どちらに走ればいいか決まりません。 譲るつもりなら、数字をきれいにする方向に走る。 それには年単位の時間がかかります。 譲ると決めてから慌てて整えても、過去の数字は変えられないからです。

逆に、数字が悪いと、出口を選べません。 継いでもらえない、買ってもらえない、借入が残っていて閉じることもできない。 これがいちばん苦しい終わり方です。

閉じるのは、失敗ではありません

ここまで「譲る」を持ち上げてきましたが、閉院を失敗と決めつける必要はありません。 後継者がいない、立地が合わない、ご自身の体のこと。閉じるのが正解のこともあります。

問題は、決めないまま、体力の限界が来て閉じることです。 計画して閉じれば、出ていくお金は減らせます。

 やること期限・目安
①閉じる日を、賃貸契約とリースの満了に合わせる数年前から逆算
②スタッフに伝える。解雇なら予告か予告手当少なくとも30日前
③患者さんに知らせ、紹介先を案内する早めに
④診療所の廃止届(保健所。福岡市なら区の衛生課)廃止後10日以内
⑤保険医療機関の廃止の届出(九州厚生局)速やかに
⑥カルテを保存する場所と方法を決める5年間

①がいちばん効きます。 賃貸もリースも、途中でやめると高くつきます。 終わる日を先に決めれば、その日に合わせて契約を組めます。

閉じるときの受け取り方も、準備できます

個人の医院なら、小規模企業共済は、廃業したときにいちばん有利な区分で受け取れます。 閉院のあとに払った原状回復などの費用も、廃業した年か前の年の経費にできる規定があります。
医療法人なら、受け取りの柱は退職金です。 持分なしの法人を解散すると、残った財産は先生のものになりません。 法人にお金を残したまま閉じないことが大事です。

終わり良ければ全て良し|今日やれること

私は、経営も人生も終わり良ければ全て良しだと思っています。 何十年も地域の患者さんを診てきても、最後が苦しいと、それまでの苦労が報われた気がしません。

近所の2軒の院長が、本当のところどう感じているかは分かりません。 でも医院が残り、患者さんの行き先が残った。 終わり方として、いい形だったと思います。

 今日やれること
①何歳で、どの出口にするかを、仮でいいので決める
②決算書を整える。私的な経費と役員貸付金をなくす
③退職金の準備を始める(理事長退職金/小規模企業共済)
④賃貸契約とリースの期限を、一覧にして確認する
⑤相談先を決めておく。税理士、取引のある銀行、同業の先生

④は、契約書を出してくるだけです。 終わる日の候補が、そこから見えてきます。

今回は歯科の話でしたが、医科の先生も同じです。 内科でも眼科でも、場所・設備・スタッフ・患者さんの流れが残れば、次の先生が引き継げます。

出口が決まると、いまやることが決まります。 終わり方から逆算して、今日の経営を決めてください。

先生の医院の「出口」と「手残り」を、一度見てみませんか。

決算書と、賃貸契約・リース契約の一覧があれば、譲る場合と閉じる場合で、手元にいくら残りそうかの方向が見えます。 何歳で、どの出口にするか。仮決めするだけでも、毎年の判断がぶれなくなります。

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最終更新:2026年10月9日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務の判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年10月)のものであり、その後の改正等により変わる場合があります。実際の譲渡・閉院のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家と所管の行政機関にご確認ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。