令和8年度の最低賃金が決まりました。 全国の平均で1,177円。去年の1,121円から56円上がります。

上がり幅としては、この制度が始まって以来2番目の大きさです。 そして上がる日は、10月1日から12月2日まで、都道府県によってバラバラです。

パートのスタッフを抱える医院にとっては、そのまま人件費の増加になります。 ただし上げる原資は、診療報酬の中にも用意されています。そこまで含めて整理します。

この記事の結論

いくら上がるのですか。
全国の平均で56円上がり、1,177円になります。上がり幅は都道府県で54円から65円まで幅があります。いちばん高いのは東京の1,280円、いちばん低いのは宮崎の1,085円です。
いつから上がるのですか。
県によって違います。10月1日に上がるのは15都道府県だけで、いちばん遅い沖縄は12月2日です。自分の県の日付を確認してください。上がった日から、その金額を下回ると違反になります。
上げる原資はありますか。
2つあります。1つはベースアップ評価料。令和8年度の診療報酬改定で点数が大きく上がり、対象になる職員も広がりました。もう1つは賃上げ税制で、上げた分の一部が法人税から引けます。

いくら上がるのか

全国の平均で56円上がり、1,177円になります。 ただしこれは平均で、実際の金額は都道府県ごとに決まります。

上がり幅も54円から65円までと、県によって違います。

都道府県新しい金額上がり幅上がる日
東京1,280円+54円10月1日
大阪1,231円+54円10月1日
愛知1,195円+55円10月1日
福岡1,114円+57円10月4日
佐賀1,095円+65円11月15日
沖縄1,086円+63円12月2日
宮崎1,085円+62円10月24日

上の表は一部です。47都道府県すべての金額と日付は、厚生労働省が一覧で公表しています。

注目していただきたいのは、上がり幅が大きいのは金額の低い県だということです。 佐賀は65円、鹿児島は64円上がります。 いちばん高い県といちばん低い県の差は、12年続けて縮まっています。

これは「守らなければいけない下限」です

最低賃金は、目標でも目安でもありません。 下回った時点で法律違反になり、下回った分は支払う義務が残ります。

本人が「この時給でいいです」と言っていても、その約束は無効です。

上がる日は、県によって違います

ここがいちばん見落とされます。全国いっせいに10月1日、ではありません。

10月1日に上がるのは15都道府県だけです。 残りは10月中旬から12月にかけて、順番に上がっていきます。 いちばん遅いのは沖縄の12月2日です。

給与の締め日をまたぐと、ややこしくなります

たとえば「20日締め・当月末払い」で、上がる日が10月4日だとします。 この場合、9月21日から10月3日までは古い金額、10月4日からは新しい金額です。

1か月の中で時給が変わるので、計算を分ける必要があります。 給与ソフトの設定をいつ変えるか、あらかじめ決めておいてください。

時給のスタッフだけの話ではありません

「うちのパートは1,200円だから関係ない」——そう思われるかもしれません。 ですが、確認していただきたいことが3つあります。

1. 月給のスタッフも、時給に直すと下回ることがあります

最低賃金は、月給の人にも適用されます。 月給を1か月の所定労働時間で割って、その金額と比べます。

月給18万円で、1か月の所定労働時間が168時間なら、時給は約1,071円。 これだと、多くの県で下回ります。

2. 手当のうち、計算に入れられないものがあります

ここを間違えると、「足りている」と思っていたのに足りていなかった、ということが起きます。

 最低賃金の計算に
基本給入れられる
毎月払う職務手当・資格手当など入れられる
通勤手当・家族手当・精皆勤手当入れられない
残業代・休日手当・深夜の割増分入れられない
賞与入れられない
臨時に払うお金(お祝い金など)入れられない

通勤手当を含めれば足りている、という計算は成り立ちません。 毎月決まって払う、基本的な賃金だけで判定します。

3. 上げると、上げていない人との差が詰まります

パートの時給を上げると、もともと少し高かったスタッフとの差がなくなります。 勤続の長い人ほど、これを敏感に感じます。

下だけ上げると、上の人が辞めます。 人が採れない時代に、これはいちばん避けたい事態です。 一段だけでなく、全体の並びを見て決めてください。

医院の人件費は、いくら増えるか

具体的に見てみます。時給を56円上げた場合で、1か月130時間働くパートを想定します。

パートの人数1か月の増加1年の増加社会保険料を含めると
3人約2.2万円約26万円約30万円
5人約3.6万円約44万円約50万円
8人約5.8万円約70万円約80万円

給与そのものだけでなく、医院が負担する社会保険料も一緒に増えます。 おおむね給与の15%ほどです。ここを忘れると、資金繰りの読みがずれます。

さらに、残業代の単価も上がります。賞与を月数で決めている医院は、賞与も増えます。 資金繰りの予定表を作っている先生は、この時期に一度直してください。

上げる原資は、診療報酬の中にあります

ここからが本題です。スタッフの給与を上げるためのお金は、診療報酬の中に用意されています。 ベースアップ評価料といいます。

令和8年度の診療報酬改定で、この評価料が大きく見直されました。 変わったのは4つです。

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の点数は、こうなりました。

 初診再診
令和6年度改定(これまで)6点2点
令和8年度・新しく賃上げする医院17点4点
令和8年度・前から賃上げしている医院23点6点
令和9年度・新しく賃上げする医院34点8点
令和9年度・前から賃上げしている医院40点10点

1点は10円です。初診が月80件、再診が月600件の医院で計算してみます。

 1か月1年
令和8年度・前から賃上げしている医院約5.4万円約65万円
令和9年度・前から賃上げしている医院約9.2万円約110万円

さきほどの「パート5人で年50万円増える」という試算と、並べてみてください。 最低賃金の引上げ分は、この評価料でおおむね賄えます。

届出をしていない無床診療所が、4割あります

日本医師会の集計によると、令和8年3月時点の届出率は、病院が93.9%、有床診療所が70.0%に対して、 無床診療所は59.2%です。

つまり4割の無床診療所が、受け取れるはずのお金を受け取っていません。 自分の医院が届け出ているかどうか、まず確認してください。

気をつけること

届出の様式や点数の細かい要件は、医療事務の領域です。 顧問の社会保険労務士か、レセプトを見ている方と一緒に確認してください。 当事務所では、届出の有無だけは必ず確認しています。

上げた分は、税金からも戻ってきます

もう1つの原資が賃上げ税制です。 前の年より給与の総額を増やした医院は、増えた分の一部を法人税から引けます。

最低賃金が上がれば、給与の総額は自然に増えます。 つまり何もしなくても要件に近づくということです。

順番を間違えないでください

税金が減るから賃上げをするのではありません。 必要だから賃上げをして、その一部が税金から戻ってくるという順番です。

引けるのは増えた分の一部だけです。残りは医院の負担として残ります。 だからこそ、ベースアップ評価料のほうを先に押さえてください。

上がる日までに、これだけやってください

順番に並べます。上から順に、どれも30分もかかりません。

  1. 自分の県の金額と、上がる日を調べる。 厚生労働省の一覧に47都道府県すべて載っています
  2. スタッフ全員の時給を一覧にする。 月給の人は、月給を所定労働時間で割った金額を書きます
  3. 通勤手当・家族手当・精皆勤手当を外して計算し直す。 ここで足りない人が出てきます
  4. 下回る人を、上がる日までに直す。 締め日をまたぐ月は、日付で分けて計算します
  5. 上の人との差が詰まりすぎていないか見る。 必要なら、そちらも一緒に上げます
  6. ベースアップ評価料を届け出ているか確認する。 令和8年度は、前に届け出ていても出し直しが要ります
  7. 増えた人件費を、資金繰りの予定表に入れる。 社会保険料の医院負担分も忘れずに
人件費は「減らすもの」ではなくなりました

スタッフが採れない、辞めてしまう。これが医院のいちばんの経営課題です。 最低賃金は、これから毎年上がり続けます。

国は最低賃金を1,500円にするという目標を掲げていました。 いま1,177円ですから、まだ道半ばです。

毎年上がる前提で、診療単価と患者数のほうを先に考える。 人件費を削って利益を出す時代は、終わっています。

出典:厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金 答申状況」(全国加重平均1,177円、改定前1,121円、引上げ額54〜65円、最高1,280円・最低1,085円、発効日は令和8年10月1日〜12月2日)。 最低賃金に算入しない賃金は最低賃金法第4条第3項および同法施行規則第1条(臨時に支払われる賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、所定労働時間を超える労働・所定労働日以外の労働に対する賃金、深夜割増の超過部分)。通勤手当・家族手当・精皆勤手当は各地域別最低賃金において算入しないこととされています。 ベースアップ評価料の点数・対象職員の範囲・届出の要否・届出率は、日本医師会「令和8年度診療報酬改定 ベースアップ評価料による賃上げ」(令和8年4月8日 定例記者会見資料)による。 人件費および評価料の試算は当事務所の計算であり、実際の金額は医院ごとに異なります。いずれも2026年9月24日時点。

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最終更新:2026年9月24日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断や資金調達の成否を保証するものではありません。記載の金利・制度は執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の金融情勢等により変動します。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家および金融機関にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。