医療機関だけが使える、国の貸し手があります。 福祉医療機構(WAM)です。

返済期間が長く、金利は契約したときのまま動かない。 銀行よりいい条件になることもあります。

ただ、診療所が使える場面は、思っているより狭いです。 とくに福岡市で新しく開くときは、そもそも対象にならないことがあります。 先に知っておかないと、計画を立て直すことになります。

この記事の結論

一人医療法人や個人の診療所でも借りられますか。
借りられます。個人の開業医も、医療法人も対象です。規模は問いません。
何に使えるお金ですか。
建物が中心です。新しく建てる・建て替える・テナントの敷金などです。医療機器だけ、運転資金だけでは原則として借りられません。機器は、新しく開くときの建物とセットのときだけです。
福岡市で開業するときも使えますか。
原則として使えません。福岡市は、一般の診療所も歯科も「診療所が足りている地域」とされています。ただし在宅療養支援診療所や、かかりつけ医機能を持つ診療所なら対象になります。春日市・大野城市・糸島市・北九州市などは「足りない地域」なので対象です。

福祉医療機構は、医療のための国の貸し手

福祉医療機構は、病院・診療所・介護施設などにお金を貸す国の機関です。 医療と福祉にしか貸しません。

 特徴
①返済期間が長い。診療所の建物なら最長20年です
②金利は契約したときのまま。10年を超えるときは、ずっと固定か、10年ごとに見直すかを選べます
③個人の開業医も、医療法人も借りられます
④そのかわり、使いみちと地域の条件がはっきり決まっています

②は、金利が上がっているいまは大きいです。 銀行の変動金利は、日銀が利上げするたびに上がります。 福祉医療機構で固定にしておけば、20年間、返済額が読めます。

ほかの借入先との比べ方は、公庫・福祉医療機構・地銀の使い分けに書きました。 この記事は、福祉医療機構だけを詳しく見ます。

診療所が使える資金と、上限・期間・金利

診療所(ベッドのない診療所・歯科)が使える資金は、次のとおりです。 金利は2026年9月1日時点の固定金利です。

資金何に使えるか上限返済期間(うち元本を待ってもらえる期間)金利
新築資金新しく開くときの建物・土地。テナントの敷金なども3億円(土地は別に3億円)耐火の建物 20年(2年)
それ以外 15年(2年)
テナントの敷金など 15年(1年)
権利金 5年(6か月)
2.7〜3.4%
甲種増改築資金「足りない地域」での建て替え・増改築3億円(土地は移転のときだけ)耐火の建物 20年(1年)ほか2.7〜3.4%
乙種増改築資金「足りている地域」での建て替え・増改築3億円(土地は対象外)甲種と同じ3.2〜3.9%
機械購入資金新築資金とセットのときだけ。1品10万円以上2,500万円(買う値段の80%まで)5年(6か月)3.0%
開業直後の運転資金新築資金とセットのときだけ300万円(必要額の80%まで)1〜3年(6か月)3.0%
経営安定化資金景気の悪化などによる、一時的な資金不足4,000万円7年(1年)3.0%
物価高騰対応資金物価高で費用が増え、収支が悪くなった診療所4,000万円10年(1年6か月)2.7%

金利に幅があるのは、返済期間が長いほど高くなるからです。 新築資金なら、10年以内で2.7%、20年以内で3.4%です。 金利は毎月見直されるので、契約する月の金利がかかります。

元本の返済を待ってもらえる期間があります

表のカッコの中は「据置期間」です。 その間は利息だけ払って、元本の返済を始めません。
新築なら最長2年。開業して患者さんが増えるまでの時期に、返済を軽くできます。

古くからある医療法人(出資持分のある法人)には、 持分のない医療法人に移るための資金もあります。 上限2億5,000万円、金利2.5%です。 持分の相続で払い戻しを求められたときなどに使います。

福岡市は「足りている地域」です

ここが、いちばん大事なところです。

福祉医療機構は、地域ごとに診療所が「足りない」か「足りている」かを決めています。 ベッドのない診療所と歯科は、「足りない地域」で新しく開くときしか、新築資金を貸しません。

地域(福岡県の一部)一般の診療所歯科
福岡市足りている足りている
北九州市足りない足りている
久留米市・飯塚市・筑後市足りている足りている
春日市・大野城市・筑紫野市・太宰府市・那珂川市・糸島市足りない足りている
古賀市・福津市・宗像市・新宮町・志免町足りない足りている
粕屋町・宇美町・篠栗町・須恵町・久山町足りない足りない

つまり福岡市の中で新しく開く場合、原則として新築資金は使えません。 歯科は、福岡市のまわりの市でもほとんど使えません。

「足りている地域」でも使える場合があります

次の診療所を新しく開くときは、福岡市でも新築資金の対象になります。
・在宅療養支援診療所(歯科は在宅療養支援歯科診療所)
・かかりつけ医機能を持つ診療所
どちらに当たるかは、開業の計画の段階で福祉医療機構に確認してください。

すでに開いている診療所の建て替え・増改築は、福岡市でも使えます。 「乙種増改築資金」になるので、金利は0.5%ほど高くなります。 ただし土地を買うお金は対象外です。

この「足りている・足りない」は毎年見直されます。 上の表は、2026年4月1日から2027年3月31日までに申し込む分に使われるものです。

機器だけ・運転資金だけでは借りにくい

よく聞かれるのが、「CTを買い替えたいので、福祉医療機構で借りられますか」です。

答えは、原則として借りられません。 診療所の機械購入資金は、新しく開くときの新築資金とセットのときだけです。 機器だけの買い替えには使えません。

機器の買い替えは、日本政策金融公庫や地銀・信金で組むのがふつうです。 返済期間はその機器を使う年数に合わせます。 中古の機器なら、短い年数で経費にできることも一緒に考えます。

運転資金も同じです。使えるのは、開業直後の300万円(新築とセット)と、 一時的に資金が足りなくなったときの経営安定化資金です。 経営安定化資金は、福祉医療機構の経営診断を受けることが条件になります。

いまの診療所が使えるのは、物価高騰の資金

福岡市ですでに開いている診療所が、いちばん使いやすいのはこれです。

 中身
対象前の年の同じ月と比べて、物価高で費用が増え、収支が悪くなった診療所
上限4,000万円(増えた費用の24か月分などとの低いほう)
返済期間10年(元本を待ってもらえる期間は1年6か月。職員の処遇改善をしていれば2年)
金利2.7%
担保500万円までは原則いりません
無利子経営改善計画を出し、職員の処遇改善の加算を取っているなら、医業収入の2か月分までは2年間無利子

最後の行が大きいです。 ベースアップ評価料などを届け出ていれば、 月の医業収入が1,000万円の診療所で2,000万円まで、2年間無利子という計算になります。

人件費と材料費が上がって手元が苦しいときは、銀行より先にここを見てください。

担保・保証人・返済のしかた

 中身
担保原則、建物と敷地に1番目の抵当権をつけます。テナントの敷金などを借りるときは、借りる額に見合う不動産を担保にします。経営安定化資金などは診療報酬の入金を担保にする方法もあります
保証人医療法人なら役員1人以上が連帯保証人になります。保証人なしを選ぶと、金利が0.15%上がります。あとから変えることはできません
返済毎月か3か月ごと。元本を毎回同じ額ずつ返すか、元本と利息の合計を同じ額にするかを選べます
早めに返すとき違約金にあたるお金(弁済補償金)がかかります

期間の長さは、毎月の返済にそのまま出ます。 1億円を借りて、元本を毎月同じ額ずつ返すとします。

返済期間毎月の元本
10年約83万円
20年約42万円

これに利息が乗ります。期間が倍なら、毎月の元本は半分です。 建物のように20年使うものは、20年で返すのが理にかなっています。

相談の順番

順やること
1開く場所が「足りない地域」か確認する。福岡市なら、在宅療養支援診療所・かかりつけ医機能に当たるかも
2設計や見積りを決める前に、福祉医療機構に電話で予約して相談する
3足りない分は地銀・信金と組み合わせる。担保の順番をどうするか、ここで決めます
4事業計画と資金繰りの見通しをそろえて申し込む

いちばん多い失敗は、物件と設計を決めてから相談に行くことです。 福岡市で「足りている地域」だと分かってから、資金計画を組み直すことになります。

最後に。 福祉医療機構は、条件が合えば強い味方です。 でも、合わないときに無理に使う制度ではありません。

公庫・地銀・福祉医療機構を並べて、その診療所に合うものを選ぶ。 それが、いちばん安く、いちばん長く借りる方法です。

出典:独立行政法人福祉医療機構「ご融資の種類(診療所)」「その他のご融資の条件」「医療貸付事業Q&A」 「医療貸付 主要貸付利率表(令和8年9月1日改定)」「診療所過不足一覧 福岡県(令和8年4月1日〜令和9年3月31日に借入申込書を受理するものに適用)」 「物価高騰の影響を受けた施設等に対する経営資金又は長期運転資金のごあんない」「金利制度のごあんない」。 金利は固定金利・保証人ありの場合で、保証人不要制度を選ぶと0.150%上乗せされます。 返済期間の「うち元本を待ってもらえる期間」は据置期間の上限です。 融資の可否・金額・条件は同機構の審査によります。金利は毎月改定されます。いずれも2026年9月時点。

福祉医療機構が使えるか、先に確認します。

開く場所、建物か賃貸か、機器と運転資金の見込み。 この3つが分かれば、福祉医療機構が使えるか、公庫・地銀とどう組み合わせるかをお伝えします。 事業計画と資金繰り表の作成、金融機関とのやり取りまでお手伝いします。 物件を決める前の段階でも結構です。

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最終更新:2026年9月25日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、融資の可否や条件を保証するものではありません。記載の制度・金利・地域の区分は執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の改定により変更される場合があります。実際のお申込みにあたっては、必ず独立行政法人福祉医療機構の最新の公表内容をご確認のうえ、同機構および税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。