決算がぎりぎりのとき、こう考えたくなることがあります。
「来月の売上を、今月に入れておけばいいのでは」 「在庫を多めに書いておけば、利益が出る」
やめてください。バレます。 しかも医院は、ほかの業種よりバレやすいのです。理由を書きます。
この記事の結論
- 粉飾とは何ですか。
- 決算書を、実態より良く見せることです。売上を前倒しする、架空の売上を立てる、在庫を水増しする、経費を翌期に送る。銀行から借りるために、やってしまうケースがほとんどです。
- なぜバレるのですか。
- つじつまが合わなくなるからです。売上を増やせば、現金か売掛が増えるはず。在庫を増やせば、仕入も増えるはず。1か所を動かすと、必ずどこかが不自然になります。3期並べると、すぐ見えます。
- バレたらどうなりますか。
- 一括返済を求められることがあります。そして、その銀行からは二度と借りられません。失うものが大きすぎます。税務でも重加算税の話になります。
よくある4つの手口
| やること | 見え方 | |
|---|---|---|
| ① | 売上の前倒し | 来期の分を、今期に入れる |
| ② | 在庫の水増し | 棚卸を多めに書く。利益が増えます |
| ③ | 経費の先送り | 今期の支払いを、来期に回す |
| ④ | 架空の売上 | ないものを、あったことにする |
②が多い。棚卸表は自分で作るものなので、いじれてしまうからです。
在庫を100万円増やせば、その分そのまま利益が増えます。 簡単です。だから手を出しやすい。
①と③は、悪気なくやってしまうこともあります。 「決算をまたぐから、まあいいか」。それも粉飾です。
なぜ、つじつまが合わなくなるのか
決算書は、全部つながっています。1か所を動かすと、必ずどこかが歪みます。
| やったこと | どこに出るか |
|---|---|
| 売上を増やした | 現金が増えていない。では売掛か未収が増えるはず→残高が不自然にふくらむ |
| 在庫を増やした | 仕入が増えていないのに、在庫だけ増えている |
| 経費を送った | 翌期の経費が、急に増える |
| 架空の売上 | いつまでも入金されない未収が残る |
銀行は3期分を並べて見ます。 利益は出ているのに現金が増えない。未収だけが毎年ふくらむ。在庫だけが増え続ける。 1年では分からなくても、3年並べると見えます。
利益が出ていれば、ふつうはお金が増えます。増えないなら、理由があるはずです。
設備投資をした、借入を返した、未収が増えた——説明できればいい。
説明できないと、そこを掘られます。
医院は、特にバレやすい
ここが医院の特殊なところです。
| なぜバレやすいか | |
|---|---|
| ① | 保険診療は、外部に記録が残ります。支払基金・国保連の通知と突き合わせられます |
| ② | レセプトの請求額は動かせません。売上の水増しが、ほぼ不可能です |
| ③ | 材料の仕入と、診療の件数が対応します。技工物の数と自費の件数も |
| ④ | カルテが残ります |
①と②が決定的です。 医院の売上の大半は、国が金額を記録しています。 いじれません。
だから粉飾をするなら在庫か自費になるのですが、 ③のとおり物の流れから逆算されます。 棚卸も 自費の現金も、税務調査でいちばん見られるところです。
バレたら、どうなるか
| 相手 | 起きること |
|---|---|
| 銀行 | 一括返済を求められることがあります。以後、その銀行からは借りられません |
| ほかの銀行 | 情報は回ります。新規の借入も難しくなります |
| 税務署 | 売上の前倒しで税金を多く払っていたなら、税務上の問題は小さい。 ただし在庫の水増しを翌期に戻して利益を圧縮していたら、話は別です |
| 顧問税理士 | 知らずに関与していたなら、契約を切られることもあります |
銀行がいちばん怖い。 税務署は「税金を払ってください」で済みますが、銀行は「信用しません」になります。
そして信用は、取り戻せません。 数百万円を借りるために手を出して、今後の数千万円を失う。割に合いません。
やらずに済ませる方法
粉飾に手が伸びるのは、たいてい「借りたいのに、決算書が悪い」ときです。 だったら、そこを別の方法で解決してください。
| 代わりにやること | |
|---|---|
| ① | 悪い数字を、そのまま持っていく。理由と、これからの手を説明する |
| ② | 借換えや一本化で、毎月の返済を軽くする |
| ③ | 役員貸付金を減らす。これだけで評価が変わります |
| ④ | 翌期の計画を作って、一緒に出す |
| ⑤ | 金額を下げて申し込む |
①が意外に効きます。 悪い数字を隠さずに持ってくる医院は、信用されます。 「今期は患者数が落ちました。理由はこうで、こう手を打っています」——これが言えれば、話は続きます。
銀行は、悪い決算書そのものより「説明できないこと」を嫌います。
最後に。 1回やると、翌年はもっと大きくやらないと、つじつまが合わなくなります。 前倒しした売上の分、翌期は足りなくなる。だからまた前倒しする。
これが粉飾のいちばん怖いところです。抜けられなくなる。 1年目は100万円だったものが、5年後には数千万円になっている。 そうなる前に、正直な数字で勝負してください。 それがいちばん安全で、結局いちばん早い。
出典:売上の計上時期は法人税法第22条第4項および法人税基本通達、 個人は所得税法第36条および所得税基本通達36-8。 棚卸資産の評価は法人税法第29条および同法施行令第28条・第31条。 隠蔽または仮装があった場合の重加算税は国税通則法第68条、 更正・決定の期間制限(偽りその他不正の行為があった場合は7年)は同法第70条第5項。 銀行の対応(期限の利益の喪失など)は金銭消費貸借契約の定めおよび金融機関の判断によります。 本文の銀行の審査・対応に関する記述は、公表された基準に基づくものではありません。 いずれも2026年9月時点。
決算書が悪くても、打つ手はあります。
数字を作る前に、ご相談ください。 借換えで返済を軽くする、役員貸付金を整理する、計画書をつけて説明する。 正直な数字のまま通す方法を、一緒に探します。 すでに手をつけてしまっている場合も、早いほど直せます。守秘義務がありますので、そのままお話しください。
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最終更新:2026年9月12日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。