税務調査でいちばん避けたいのは、追徴の金額ではありません。 「隠していた」と判断されることです。
そう判断されると、罰金が35%になり、さかのぼる年数が5年から7年にのび、 延滞税の打ち切りもなくなります。負担が一気に3倍以上になります。
そして医院でこれが起きるのは、ほとんどが同じ場所です。自費の現金です。
この記事の結論
- 何をすると「隠していた」になるのですか。
- 事実を隠す、または事実でないものを作ることです。売上を帳簿に載せない、二重の帳簿を作る、ないものを買ったことにする、領収書を書き換える。単なる計算間違いや、判断の誤りは含まれません。
- どれくらい重くなりますか。
- ふつうの指摘なら10%の罰金が、35%になります。申告していなければ40%。さらにさかのぼる年数が7年にのび、延滞税の打ち切りもなくなります。300万円の不足で、合計が約54万円から約184万円に変わります。
- 医院ではどこが危ないですか。
- 自費の現金収入です。自由診療、健診、文書料、物販。カルテには残っているのに、帳簿にない。ここを突かれます。
「間違えた」と「隠した」は、まったく違います
| 例 | 罰金 | |
|---|---|---|
| 間違えた | 売上の計上時期がずれた、棚卸を忘れた、経費の区分を誤った | 10% |
| 隠した | 売上を帳簿に載せない、架空の経費を作る、領収書を書き換える | 35% |
分かれ目は「事実を隠したか、事実でないものを作ったか」です。
期ズレも 棚卸の漏れも、隠したことにはなりません。 仕組みの問題だからです。医院の指摘の大半は、こちら側です。
前の調査で指摘され、直すと言っておきながら直していない。
それが何年も続いている。
こうなると「知っていて、あえてやっていた」と見られることがあります。
一度指摘されたことは、必ず直してください。
医院でいちばん危ないのは、自費の現金
医院の売上の大半は保険診療です。 これは支払基金と国保連の記録が残るので、抜くことができません。
だから調査官が見るのは、記録が医院の中にしかないお金です。
| 危ないところ | なぜ |
|---|---|
| 自由診療の現金 | 外部に記録が残らない |
| 健診・予防接種の窓口収入 | 件数が多く、まぎれやすい |
| 文書料(診断書・証明書) | 少額で、レジを通さないことがある |
| 物販(歯ブラシ・サプリ・化粧品) | 売上として認識されていないことがある |
| 自販機・駐車場の収入 | そもそも帳簿に載っていない |
悪気なく漏れているものもあります。 文書料の千円札を引き出しに入れたまま、というような。
ただしそれが何年も続いて、金額がまとまってくると、説明が苦しくなります。 「知らなかった」で通るかどうかは、金額と回数で変わります。
カルテと帳簿を突き合わせられます
調査官がやるのは、単純な作業です。
| やること | |
|---|---|
| ① | カルテや予約表から、自費の治療をした患者さんを拾う |
| ② | その日の帳簿・レジの記録に、その分の入金があるか見る |
| ③ | 合わないものがあれば、その理由を聞く |
カルテは消せません。治療した記録は残ります。 そこにあるのに帳簿にない、という状態が、いちばん説明しにくい。
院長ご自身と、ご家族の口座。使っていない予約表やメモ。技工所からの請求(歯科なら、技工物の数と自費の件数が合うか)。材料の仕入数量。
お金の流れは、必ずどこかに跡が残ります。
5年が7年になります
税務署がさかのぼれる年数は、原則5年です。 ところが偽りや不正があったと判断されると、7年になります。
| ふつうの指摘 | 隠していたと判断 | |
|---|---|---|
| 罰金の率 | 10%(多い部分15%) | 35%(無申告なら40%) |
| さかのぼる年数 | 5年 | 7年 |
| 延滞税の打ち切り | あり(おおむね1年分) | なし(全期間) |
| 次の調査 | ふつう | 早く、厳しくなる |
重いのは年数が2年のびることです。 毎年同じことをしていたなら、追徴も7年分になります。
さらに、5年以内にもう一度やると、罰金は45%にのぼります。 くわしくは追徴されたら、いくら払うのかをご覧ください。
これは「隠した」にはなりません
不安になりすぎる必要はありません。 次のようなものは、隠したことにはなりません。
| 内容 | |
|---|---|
| ① | 売上の計上時期がずれていた |
| ② | 棚卸を数えていなかった |
| ③ | 経費になると思って入れていたものが、否認された |
| ④ | 自宅と医院で分けた割合が、認められなかった |
| ⑤ | 単純な計算ミス・入力ミス |
③と④は、判断が分かれるところです。 医院の言い分があり、税務署の言い分がある。 話し合って決まる性質のもので、隠したこととは違います。
大事なのは「なぜそう処理したか」を説明できることです。 説明があれば、判断の違いで終わります。説明がないと、疑われます。
もし心当たりがあるなら
ここまで読んで、思い当たることがある先生へ。
調査の連絡が来る前なら、まだ間に合います。 自分から修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません。 そして自分から直したものは、重加算税になりません。
| やること | |
|---|---|
| ① | 顧問税理士に、正直に話す。税理士には守秘義務があります |
| ② | 何年分、いくらあるかを洗い出す |
| ③ | 修正申告を出して、納める |
| ④ | 二度と起きない形にする(レジを通す・記録を残す) |
①がいちばん重い。でも、ここを越えないと先に進みません。
言いにくいなら、顧問税理士ではなく別の税理士に相談する方法もあります。 誰かに話して、数字にすることが先です。
最後に。 この記事は脅すために書いたものではありません。 医院の指摘のほとんどは、隠したことではなく、やり方の問題です。 医科歯科の税務調査で書いたとおり、 正しく記録して、正しく申告していれば、調査は怖いものではありません。
ただし一度、線を越えてしまうと戻るのが大変です。 だから線を越えない。そして越えていたなら、自分から戻る。それだけです。
出典:重加算税は国税通則法第68条(隠蔽または仮装があった場合に、過少申告加算税に代えて35%、 無申告加算税に代えて40%)。5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合の10%加重は、 国税庁「加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし」による。 更正・決定の期間制限は国税通則法第70条第1項(原則5年)および同条第5項第1号 (偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた場合は7年)。 過少申告加算税・無申告加算税の率は国税庁タックスアンサー No.2026、No.2024。 延滞税および計算期間の特例は同 No.9205。 重加算税の賦課は個別の事実関係により判断されます。いずれも2026年9月時点。
心当たりがあるなら、調査の連絡が来る前にご相談ください。
自分から直せば、過少申告加算税はかからず、重加算税にもなりません。 何年分・いくらあるのかの洗い出しから、修正申告、そして二度と起きない形づくりまで一緒に進めます。 税理士には守秘義務があります。そのままお話しください。
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最終更新:2026年9月11日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年9月)のものであり、その後の制度改正等により変更される場合があります。加入資格の可否は個別の事情によって異なりますので、実際のご判断にあたっては、必ず中小機構および税理士等の専門家にご確認ください。