2026年9月24日、国税庁のシステムが新しくなりました。 「KSK2(ケーエスケーツー)」と呼ばれるものです。

「AIで全部見抜かれるようになる」「調査が一気に増える」。 そんな話を耳にした院長先生も多いと思います。 ただ、国税庁が公表している資料を読むと、書いてあることはもう少し地味です。

結論から言うと、変わったのは国税庁の「土台」で、医院がやるべきことは変わりません。 むしろ、データで見られる時代だからこそ、毎日の記録の差がそのまま出ます。

この記事では、KSK2について国税庁の資料で確認できることだけを整理し、 そのうえで医科・歯科それぞれ、調査で数字のずれが出やすいところを見ていきます。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

KSK2とは何ですか。
国税庁の基幹システムの入れ替えです。全国の国税局と税務署を結ぶ「国税総合管理(KSK)システム」を、2026年9月24日に新しくしました。狙いは「紙からデータへ」「税目ごとに分かれていたデータベースの統合」です。紙で出した申告書も、AI-OCR(文字を読み取る仕組み)でデータにします。
AIが申告の誤りを全部見抜くようになるのですか。
そうは書かれていません。国税庁はKSK2の前から、AIの予測モデルで「調査が必要そうな先」を選んでいます。そのうえで調査に行くかどうかは調査官が最終的に判断する、と公表しています。KSK2は、その分析に使うデータを整える土台です。
医院は何をしておけばいいですか。
外から見える数字と、院内の記録を合わせておくことです。保険診療の入金、材料や技工の仕入れは、医院の外にも記録があります。窓口の日計表・レジ・レセコンの日報を毎日一致させる。期末に在庫を数える。自費の前受金を必ず帳簿に載せる。この3つが基本です。

KSK2は、国税庁の「土台」の入れ替えです

KSKは「国税総合管理システム」の略です。 全国の国税局と税務署をネットワークで結び、申告や納税の情報を地域や税目を越えて一つにまとめて管理する基幹システムです。 KSK2は、その後継です。

項目国税庁の資料で確認できること
いつから2026年9月24日に国税システムを更改
考え方①書面中心からデータ中心の事務処理へ(紙からデータ)
②税目別・事務系統別に分かれていたデータベースの統合(縦割りの解消)
③独自の大型コンピュータから、オープンなシステムへ
紙の申告書書面で出された申告書・申請書をAI-OCRで読み取り、データ化する。そのために様式も改定
納税者から見える変化一部の申告書・届出書の様式が新しくなった。申告書の控用がなくなった。配色は原則白黒。通知の「整理番号」(8桁)が「お問い合わせ番号」(13桁)に
税務署の体制申告書の入力などの内部事務を「業務センター」に集める取組を、2026年7月から全税務署に拡大。浮いた事務量は、税務調査やデータ活用などに回すとしています

ひとことで言えば、紙で出しても、e-Taxで出しても、同じデータとして一か所に並ぶようになった、ということです。 法人税の申告は、すでに9割以上がe-Taxです(国税庁の公表では2025年度の速報値で91.8%)。 医療法人の申告は、もともとほとんどがデータで届いています。

申告書の「控え」は、自分で残してください

新しい様式では、書面の申告書に控用がつきません。 紙で出す個人の先生は、提出する前にコピーを取るか、PDFで保存してください。 調査のとき、「何を出したか」を手元で確認できないのは不利です。
なお、切り替え直後の9月下旬には、税務署の窓口手続(納税証明書の交付など)に時間がかかっているという国税庁のお知らせが出ています。

「AIがすべて見抜く」は言いすぎです

ここは正確に書いておきます。 AIを調査先の選定に使うこと自体は、KSK2より前から始まっています。

国税庁の法人税の調査事績(2024年7月〜2025年6月)には、こう書かれています。 AIを使った予測モデルで調査の必要度が高い法人を抜き出し、 不正のパターン(売上・原価・経費のどこが怪しいか)を判定する。 それに申告書や資料情報の分析を加えて、最後は調査官が調査するかどうかを判断する。

つまりAIは「どこを見に行くか」を絞る道具で、間違いを確定させる道具ではありません。 調査先の選び方の細かい基準も、公表されていません。

国税庁の公表(2024年7月〜2025年6月)数字
法人税の実地調査の件数5万4千件(前の年より7.4%減)
法人税・消費税の追徴税額3,407億円(直近10年で最高)
調査1件あたりの追徴税額634万円(前の年より15.4%増)
所得税の「簡易な接触」の件数68万9千件(前の年より23.7%増)

読み取れるのは、調査の件数は減り、1件あたりの追徴は増えているということです。 広く浅く回るのではなく、データで当たりをつけてから行く。 そういう形に変わってきています。

もうひとつ。「簡易な接触」とは、税務署に来てもらったり、文書や電話で連絡したりして申告を直してもらうものです。 実地調査に来なくても、手紙や電話で「ここはどうなっていますか」と聞かれることは増えています。 個人開業の先生は、こちらのほうが身近かもしれません。

動画でもお話ししていますが、税務調査があるのは、日本が自分で計算して申告する仕組み(申告納税制度)だからです。 システムが新しくなっても、この前提は変わりません。 知らないから怖いのであって、中身が分かれば、やることは決まっています。

医院の数字は、もともと外から見えています

データで選ぶ時代に、医院が気をつけるべき理由はここです。 医院の収入と仕入れは、医院の外にも記録が残っています。

お金の流れ外にある記録医院の中の記録
保険診療の入金支払基金・国保連からの振込レセプト、入金の記録
窓口の負担金・自費患者さんの領収書。医療費控除の明細書(病院名と金額を書く欄があります)日計表、レジ、レセコンの日報
材料・薬・技工仕入先・技工所の請求書と納品の記録仕入の帳簿、期末の在庫表
カード・QR決済決済会社からの入金日計表の決済別の内訳

調査官がやることは、昔から同じです。外の記録と中の記録を突き合わせて、合わないところを聞く。 データが一か所にまとまると、その「合わない」が見つかりやすくなります。

医療費控除の明細書との照合について

患者さんが確定申告で出す医療費控除の明細書には、支払った病院・薬局の名前と金額を書きます。 領収書は、患者さんが5年間保存して、求められたら見せることになっています。
ただし、国税庁がこの明細書と医院の売上を照合していると公表した資料は、見当たりません。 ここは「できるかどうか」ではなく、患者さんに渡した領収書と、医院の帳簿が食い違わない状態にしておくのが答えです。

業種別の数字も見ておきます。 国税庁が毎年出している「個人事業者の1件あたりの申告漏れが大きい業種」では、 直近の集計で眼科医が2位(1件あたり3,894万円)でした。 2020年7月〜2021年6月の集計では、内科医が3位でした。 詳しくは医科歯科の税務調査はここを見られるに書きました。

一方、法人税の「不正が見つかった割合が高い業種」の上位10には、診療所は入っていません。 医療法人だから特に狙われる、という数字は出ていないということです。 ただし個人の先生も法人の先生も、見られる場所は同じです。現金の自費と、在庫です。

歯科で、数字がずれやすいところ

歯科は、物の数と売上が対応するのが特徴です。 インプラントの本数、技工物の数、矯正装置。 仕入れや発注の記録から、自費の件数がおおよそ読めてしまいます。

ところずれ方そろえておくもの
矯正の前受金数十万円をまとめて、または分割で受け取る。いつ売上にするかが年ごとにぶれる。受け取ったのに帳簿に載っていない契約書、入金の記録、患者ごとの残高の一覧
インプラント仕入れた本数と、売上にした本数が合わないカルテの埋入記録と仕入本数の対照
技工料技工所への発注は自費の補綴なのに、売上の件数が少ない技工所の請求明細と、自費の売上明細
材料の在庫期末にまとめ買いした材料を全部経費にしている期末の在庫表(数えた日付と人)

矯正の前受金は、扱い方に考え方の幅があります。 受け取ったときに売上にするのか、治療の進み具合に合わせて分けるのか。契約の内容によっても変わります。 大事なのは、決めた方法を毎年続けることと、受け取ったお金が必ず帳簿のどこかに載っていることです。 期をまたぐ売上の考え方は、期ズレは調査の定番ですで詳しく書いています。

在庫は、医薬品と歯科材料の棚卸のとおり、数えていないと必ず指摘されます。 私はよく「在庫は、お金がものに変わっただけです」とお伝えしています。 100万円の材料は、100万円の現金と同じ。スタッフ任せにせず、院長が数え方を決めてください。

医科で、数字がずれやすいところ

医科は、窓口の現金と、保険以外の小さな収入に出ます。 保険診療がガラス張りなぶん、関心は記録が院内にしかないお金に向かいます。

ところずれ方そろえておくもの
窓口の現金日計表・レジ・レセコンの日報の金額が、日によって合わない毎日の3点の一致と、合わなかった日の理由メモ
自由診療美容、AGA、自費の点滴などのコース代を前受けしたまま、売上の時期がぶれる。現金払いが多いコース契約の一覧と、残回数・残高
予防接種・自費健診季節に集中し、別の台帳で管理されて本体の帳簿に入らない接種・健診の件数と、入金の対照
文書料診断書・意見書の現金を、レジを通さず受け取る文書の発行台帳
院内処方の薬・検査試薬期末の在庫を数えていない期末の在庫表

国税庁が公表したAI活用の事例には、 「売上伝票を捨てて、その分の現金売上を外した」「売上代金を代表者の個人口座に入れさせた」 というパターンが並んでいます。 医院に置きかえると、窓口の現金と、院長個人の口座です。

医院のお金は医院の口座に集める。それだけで、説明はずっと楽になります。

「合わない日」があるのは、ふつうです

お釣りの間違いや返金で、現金が狂う日はあります。 問題になるのは、合わない理由が残っていないことです。 その日のうちに一行メモを残す。それだけで、調査のときの説明が変わります。

家族への給与と交際費は、医科・歯科とも聞かれます

私は動画で、調査で必ず見られる5つとして ①売上のずれ・漏れ、②棚卸の漏れ、③院長と親族への支払い、④源泉所得税の漏れ、⑤収入印紙の貼り忘れ を挙げています。③は医院でも必ず聞かれます。④は非常勤の先生への支払いで起きやすいところです。

項目聞かれること詳しくは
配偶者・家族の給与本当に働いているか。仕事の中身に見合う金額か。受付や経理なら出勤の記録はあるか配偶者と親族への給与
交際費誰と、何の目的か。家族の食事が混ざっていないか医療法人の交際費
領収書のない支出何に使ったか、説明できる記録があるか領収書がない経費

国税庁のAI活用事例には、「偽りの出勤表を作って、架空の人件費を計上した」というものもあります。 家族への給与そのものは、何も悪くありません。 ただ、勤務の実態が記録で示せるかが問われます。 タイムカードや勤怠のデータは、家族もスタッフと同じように残してください。

調査に強い医院の、毎日・毎月・毎年

データで選ばれる時代の対策は、隠す技術ではありません。 選ばれても、聞かれても、すぐに説明が出てくる状態を作っておくことです。

いつやること
毎日日計表・レジ・レセコンの日報を一致させる。合わない日は理由を一行。自費・文書料・物販も必ずレジを通す
毎月自費の前受金(矯正・コース契約)の残高を一覧で確認。技工所・仕入先の請求と自費の件数をざっと見比べる。決済会社の入金と日計表を照らす
決算材料・薬の在庫を数えて、日付と数えた人を残す。決算月の翌月に入った入金に、前の月の売上が混ざっていないか見る
申告売上や利益率が大きく動いた年は、理由を決算書の説明欄や事業概況説明書に書いて出す
保存帳簿と書類は原則7年。メールやネットで受け取った請求書・領収書はデータのまま保存する(電子帳簿保存法)

最後の行は、2024年1月からすべての事業者に求められています。 メールで届いた技工所の請求書、ネットで買った材料の領収書。 紙に印刷しただけで、元のデータを消していないか確認してください。

電子帳簿は、調査のときの保険にもなります

訂正や削除の履歴が残るなど、一定の要件を満たした「優良な電子帳簿」で記帳し、事前に届出をしておくと、 あとで申告漏れが見つかっても過少申告加算税が5%軽くなる仕組みがあります。 クラウド会計をお使いなら、要件を満たせるか顧問税理士に確認してください。

調査の当日は、聞かれたことに端的に答え、分からないことは「確認して後でお答えします」で十分です(理事長がやってはいけない3つのこと)。

結局のところ、調査対策は日々の整理整頓に尽きます。 書類は捨てない。月ごとにひとつのファイルに入れる。 頼まれた書類がすぐ出てくる医院は、それだけで印象が違います。

最後に。 KSK2で変わったのは、国税庁の側の道具です。 医院の側でやることは、昔から同じです。 記録を残し、外の数字と中の数字を合わせておく。 それができていれば、システムが新しくなっても、調査は怖いものではありません。

出典:国税庁「国税システムの更改について」(令和8年9月24日更改、様式・控用・お問い合わせ番号・電子交付の変更)、 e-Tax「国税システムの更改に伴うe-Tax仕様書等の情報提供について」(AI-OCRによる書面のデータ化と様式改定)、 国税庁「税務署窓口における各種手続の遅延について」(令和8年9月29日更新)、 国税庁「国税庁レポート2026」(KSKからKSK2への移行、内部事務のセンター化、国税庁におけるAIの活用、e-Taxのオンライン利用率〈令和7年度は速報値〉)、 国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2023-」(システム刷新の3つのコンセプト、AI・データ分析の活用)、 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(実地調査件数・追徴税額、AI・データ分析の活用事例、不正発見割合の高い業種)、 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(簡易な接触の件数、事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な業種)、 国税庁タックスアンサーNo.1120(医療費控除)、No.5930(帳簿書類等の保存期間)、 国税庁「電子帳簿保存法の概要」「優良な電子帳簿の要件」。 調査先の選定基準は公表されていません。いずれも2026年10月時点。

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最終更新:2026年10月7日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断や調査の結果を保証するものではありません。記載の制度・統計は執筆時点(2026年10月)に国税庁が公表している内容に基づいており、調査先の選定基準など公表されていない事項については記載していません。実際の対応にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。