個人でクリニックを開いている院長先生に、2027年から関係する改正です。 青色申告の65万円の控除が、最大75万円に上がります。

「10万円増えるなら得だ」と思われたかもしれません。 ただ、この改正で本当に大事なのは、増える10万円ではありません。 申告を紙で出している院長は、控除が10万円まで下がるということです。

国が言っていることは、ひとつです。 帳簿をデジタルで残し、申告もデジタルで出してください。 そうすれば控除を増やします、そうでなければ減らします、という改正です。

この記事では、改正の中身と、医院ならではの注意点を説明します。 医療法人には、この控除そのものがないことも書いておきます。 社会保険診療の概算経費(措置法26条)を使っている医院は、とくに5章を読んでください。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

何が変わるのですか。
2027年(令和9年)分の所得税から、青色申告特別控除が75万円・65万円・10万円の3段になります。いまの55万円はなくなります。75万円は「複式簿記+e-Tax」に加えて、優良な電子帳簿などで帳簿を残すことが条件です。
紙で申告している院長はどうなりますか。
帳簿をきちんとつけていても、控除は10万円になります。e-Taxで出すだけで65万円に戻ります。所得税と住民税で税率43%の院長なら、差は1年で約24万円です。
医療法人の理事長にも関係しますか。
医療法人には、青色申告特別控除はありません。個人の所得税の制度だからです。理事長の給与にも関係しません。理事長が個人で医院の土地建物を法人に貸している場合だけ、関係することがあります。

2027年分から、控除は「75万・65万・10万」の3段に

青色申告特別控除は、帳簿をきちんとつけている個人事業者が、所得から差し引ける金額です。 個人開業の医院の所得は「事業所得」なので、この控除の対象になります。

2026年3月に成立した令和8年度の税制改正で、この控除の段階が変わりました。 2027年1月から12月までの所得、つまり2028年3月に出す確定申告から適用されます。

控除額2026年分まで2027年分から
75万円(なし)複式簿記+e-Taxで提出+優良な電子帳簿の保存またはデジタルシームレス保存
65万円複式簿記+(e-Taxで提出または優良な電子帳簿の保存)複式簿記+e-Taxで提出(必須)
55万円複式簿記+期限内に紙で提出なくなります
10万円簡易な帳簿でも可上のどれにも当たらない場合。ただし簡易な帳簿で、2年前の収入が1,000万円を超える人は0円

65万円・75万円とも、確定申告の期限(3月15日)までに出すことが条件です。 還付になる申告でも同じです。期限を過ぎると10万円になります。

表のいちばん下も見ておいてください。 個人の医院で、年間の収入が1,000万円以下ということはまずありません。 簡易な帳簿(おこづかい帳のような記録)のままの医院は、10万円も引けなくなります。

事業税では、どの控除も引けません

青色申告特別控除は、所得税と住民税の話です。 8月と11月に届く個人事業税の計算では、65万円も75万円も引けません。 事業税の金額は、この改正では変わりません。

紙で出す院長は、10万円に下がります

いちばん影響が大きいのは、帳簿は会計ソフトでつけているのに、申告書は紙で出している院長です。 いまは55万円を引けていますが、2027年分からは10万円になります。

動画では「降格」と言いました。 帳簿のつけ方は何も変わっていないのに、出し方が紙というだけで控除が下がるからです。

どれくらい税金が変わるか、計算してみます。 所得税は復興特別所得税を含め、住民税にも同じ控除が反映される前提の概算です。

2027年分の出し方控除額紙(10万円)と比べた税金の差
税率33%+住民税10%の院長
同じく
税率23%+住民税10%の院長
紙で提出10万円(基準)(基準)
e-Taxで提出65万円約24万円少ない約18万円少ない
e-Tax+優良な電子帳簿75万円約28万円少ない約22万円少ない

所得税の税率33%は、課税される所得が900万円を超え1,800万円以下の部分にかかる税率です。 個人開業の院長では、この税率の先生が多いと思います。

e-Taxにするだけで、毎年約24万円です。 10年続ければ約240万円になります。 やることは、マイナンバーカードで送信できる環境を作るだけです。 ICカードリーダーか、マイナンバーカードを読み取れるスマホがあれば足ります。 税理士に申告を頼んでいるなら、税理士がe-Taxで代わりに送信する形でも条件を満たします。

75万円の条件は「1月1日から」の電子帳簿

65万円から75万円に上げるには、e-Taxに加えて、次のどちらかが必要です。

方法中身
① 優良な電子帳簿の保存仕訳帳と総勘定元帳を、次の3つを満たすソフトで作り、データで保存する。
・訂正・削除・追加の履歴が残る
・帳簿どうしのつながりが確認できる
・日付・金額・取引先で検索できる
② デジタルシームレス保存国の仕様に沿ったデジタルインボイスや、預金口座の決済データを、国税庁長官が定める基準に合うシステムで受け取り、帳簿とつなげて保存する

医院で現実的なのは①の優良な電子帳簿です。 ②は、取引先とのやり取りまでデジタルでそろえる必要があり、ハードルが上がります。

ここでいちばん大事なのは、時期です。 国税庁の案内では、優良な電子帳簿は「課税期間の最初から」要件を満たしている必要があります。 個人の課税期間は1月1日から12月31日です。

2027年に入ってから設定したのでは、遅いです

2027年分で75万円を受けるには、2027年1月1日の最初の仕訳から、履歴が残る状態で記帳している必要があります。 年が明けてから設定をオンにしても、1月分の履歴は残っていません。 設定は2026年のうちに済ませてください。

あわせて、届出書を出します。 優良な電子帳簿で受ける場合は「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る75万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書」です。 期限はその年分の確定申告期限なので、2027年分なら2028年3月15日までです。 国税庁は、2027年3月ごろに届出書の名前を「65万」から「75万」に変える予定としています。

すでに優良な電子帳簿で65万円を受けている先生は、出し直す必要はありません。

優良な電子帳簿には、もうひとつ良い点があります。 あとで申告漏れが見つかっても、その帳簿に関係する分は過少申告加算税が5%軽くなります(届出が必要です)。

医療法人には、この控除がありません

青色申告特別控除は、個人の所得税の制度です。 医療法人は法人税で申告するので、65万円も75万円もありません。 医療法人の青色申告の特典は、赤字の繰越しなど別のものです。

理事長個人も、医療法人から受け取るのは給与なので、この控除は使えません。 関係してくるのは、次のような場合です。

理事長の状況この改正との関係
医療法人からの給与だけ関係ありません
個人の土地・建物を医療法人に貸している(青色申告)貸付けが事業といえる規模でなければ、もともと最大10万円。紙でもe-Taxでも10万円のままです。事業といえる規模なら、医院と同じく65万円・75万円の話になります
これから法人化を考えている個人の院長法人にした年から、この控除はなくなります。法人化で税金が減る仕組みと並べて比べてください

ただし、医療法人に無関係な話でもありません。 優良な電子帳簿で過少申告加算税が軽くなる仕組みは、法人にもあります。 国税庁は2026年9月に新しいシステム(KSK2)に切り替え、紙からデータへの流れを進めています。 帳簿をデータで正しく残す方向は、個人も法人も同じです。

概算経費(措置法26条)の医院は、引ける額に上限があります

ここからは医院だけの話です。 保険診療の収入が少ない個人の医院は、実際の経費ではなく、決まった率で経費を計算できます。 租税特別措置法26条の社会保険診療報酬の所得計算の特例、いわゆる概算経費です。

社会保険診療報酬の金額経費にできる率
2,500万円以下の部分72%
2,500万円超 3,000万円以下の部分70%
3,000万円超 4,000万円以下の部分62%
4,000万円超 5,000万円以下の部分57%

使えるのは、社会保険診療報酬が5,000万円以下で、自費も含めた医業の収入が7,000万円以下の医院です。

注意したいのは、この特例と青色申告特別控除の関係です。 国税庁の青色申告決算書の書き方では、26条を使う医院は、控除の計算の元になる所得から26条を使った保険診療の所得を除くとされています。 つまり、引けるのは自費など、26条の外の所得の範囲までです。

医科の例で考えます。 保険診療の収入が2,400万円の内科で、26条を使っているとします。 自費は健診・予防接種・診断書の文書料くらいで、その分の所得が40万円だったとします。 この場合、65万円の形でも75万円の形でも、引けるのは40万円までです。 電子帳簿を整えて75万円にしても、上乗せの10万円は効きません。

歯科の例では事情が違います。 保険診療が2,000万円、インプラントや矯正などの自費が800万円ある歯科医院なら、自費の所得だけで75万円を超えることがほとんどです。 この場合は、26条を使っていても75万円をまるごと引けます。

26条を使うか、実際の経費で計算するか

26条と実際の経費のどちらが得かは、毎年選べます。 実際の経費で計算すれば、青色申告特別控除は医院の所得全体から引けます。 2027年分からは、比べるときに「75万円が全部引けるかどうか」も入れてください。 保険診療が中心で自費が少ない医院ほど、比べ直す意味があります。

freeeなどの会計ソフトで、75万円の形にする

優良な電子帳簿は、手作りの表計算では作れません。 要件を満たした会計ソフトを使うのが前提です。 日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が、要件を満たすソフトを認証して公表しています。 2026年10月時点の一覧には、次のような身近なソフトが載っています。

ソフトJIIMAの電子帳簿ソフト認証
freee会計あり
マネーフォワード クラウド会計/クラウド確定申告あり
弥生会計/やよいの青色申告(オンライン版を含む)あり

ただし、認証されたソフトを使っているだけでは足りません。 freee自身も、ソフトの利用や認証だけで75万円が保証されるわけではない、と案内しています。 必要な設定やプランはソフトごとに違うので、年内に販売元の案内を確認してください。

医院でのつなぎ方の例です。

お金の流れ会計ソフトへの入れ方
支払基金・国保連からの振込入金口座をネットバンクで連携し、自動で取り込む
窓口の現金(一部負担金・自費)毎日の日計表の合計を入力する。レジが連携できるなら連携
技工所・歯科材料・医薬品の卸請求書をデータで受け取るか、スキャンして取り込み、仕訳とひもづける
カード払いの経費事業用のカードを1枚決めて連携する

動画でもお話ししましたが、クラウド会計は慣れると手入力よりずっと楽です。 通帳と領収書を見ながら打ち込む作業が、取り込んだデータを確認して登録するだけになります。 歯科なら技工所への支払い、医科なら健診や予防接種の入金など、毎月決まった取引は特に楽になります。

帳簿を税理士事務所に作ってもらっている場合も、条件は同じです。 誰が入力するにしても、要件を満たすソフトで、1月1日から履歴が残る形で作る必要があります。 顧問の税理士に「2027年分は75万円の形でいけますか」と聞いておいてください。

院長が今年中にやること

順やること
1去年の確定申告書を出して、青色申告特別控除がいくらだったか(55万円・65万円・10万円)を確かめる
2紙で出していたら、e-Taxの準備をする。マイナンバーカードと、読み取れるスマホかICカードリーダー。税理士に頼むなら代理送信をお願いする
3使っている会計ソフトが優良な電子帳簿に対応しているかを確認し、必要な設定を2026年中に済ませる
426条の概算経費を使っている医院は、実際の経費で計算した場合と、75万円を入れて比べ直す
52027年分の確定申告(2028年3月15日まで)と一緒に、75万円の届出書を出す

1と2だけでも、紙で出していた先生なら、所得税と住民税で税率43%の場合、毎年約24万円の差になります。 まだ青色申告の届出を出していない先生は、そこからです。

最後に。 この改正は、10万円の節税の話ではないと思っています。 国は、帳簿と申告をデータで受け取る方向に進んでいます。 デジタルにした医院は控除が増え、紙のままの医院は控除が減る。 経理にかける時間を減らして、診療に時間を使う。そのための切り替えのきっかけにしてください。

所得がさらに増えてきたら、控除の10万円で悩むより、医療法人にするかどうかを考えたほうが効果が大きいこともあります。 個人のうちに使える小規模企業共済とあわせて、全体で比べてください。

2027年分を、75万円の形で始めませんか。

いまの申告の出し方と、使っている会計ソフトを教えてください。 75万円の条件を満たせるか、年内に何を設定すればいいかをお伝えします。 概算経費(措置法26条)を使っている医院は、実際の経費との比べ直しもいたします。

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最終更新:2026年10月23日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・要件・試算は執筆時点(2026年10月)の法令等と国税庁の公表資料にもとづく概算であり、その後の改正や取扱いの公表により変わる場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。