2027年9月から、厚生年金の保険料が増える理事長が出てきます。 保険料率の18.3%は変わりません。それでも増えます。

理由は、保険料の計算に使う「標準報酬月額」の上限が、65万円から75万円まで3年かけて上がるからです。 役員報酬が月66万5,000円以上の理事長は、本人の負担も、医療法人の負担も、同じ額だけ増えます。報酬を上げていなくても、です。

「うちは医師国保だから、社会保険料は定額のはず」と思っている先生もいます。医師国保は健康保険の話で、厚生年金は別です。 個人開業の院長ご本人は対象外ですが、職員5人以上の医院なら、高い給料の勤務医の分は医院が負担します。

いつ、誰の、いくらが増えるのか。理事長報酬で試算し、報酬を下げるべきかどうかまで整理します。 先にお伝えすると、役員報酬は、税金だけで決めないでください。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

いつ、いくらまで上がりますか。
厚生年金の標準報酬月額の上限が、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円になります。保険料率18.3%は変わりません。増えるのは、賞与を除く報酬が月66万5,000円以上の人です。
理事長の負担は、いくら増えますか。
報酬が月73万円以上なら、2029年9月以降は本人と医療法人がそれぞれ月9,150円、合わせて年21万9,600円増えます。家族の理事や勤務医が同じ水準なら、人数分増えます。
医師国保・歯科医師国保に入っていれば関係ありませんか。
関係あります。医師国保を続けられるのは健康保険だけで、厚生年金には医療法人の全員が入ります。報酬に連動して動くのが厚生年金だけなので、むしろ影響がそのまま出ます。
個人開業の院長はどうですか。
院長ご本人は国民年金なので対象外です。ただし職員が常時5人以上の個人医院は厚生年金の適用事業所なので、月66万5,000円以上の勤務医などがいれば、その分の医院負担が増えます。

厚生年金の「頭打ち」が、3年かけて上がります

厚生年金の保険料は、報酬そのものに18.3%を掛けるのではありません。 報酬をいくつかの段に区切った「標準報酬月額」(保険料を計算するための仮の月給)に、18.3%を掛けます。 これを本人と法人で半分ずつ、9.15%ずつ負担します。

この段には上限があり、いまは65万円です。 月70万円の理事長も、月200万円の理事長も、厚生年金は65万円として計算されます。保険料は月11万8,950円、本人と法人で5万9,475円ずつです。 健康保険(協会けんぽ)の上限は139万円なので、厚生年金はかなり低いところで頭打ちになっていました。

2025年6月に成立した年金制度改正法で、この上限が段階的に上がることが決まりました。

時期上限(標準報酬月額)この段に入る人(賞与を除く報酬月額)
いま65万円63万5,000円以上
2027年9月から68万円66万5,000円以上69万5,000円未満(※)
2028年9月から71万円69万5,000円以上73万円未満(※)
2029年9月から75万円73万円以上

(※)上限が68万円・71万円の間は、それ以上の報酬の人もその時点の上限の段に入ります。

報酬が月66万5,000円未満なら、保険料は変わりません。 65万円を少し超えた程度(63万5,000円〜66万5,000円未満)の人は、いまと同じ65万円の段のままです。

厚生労働省の資料では、標準報酬月額が65万円以上の人は厚生年金の加入者の6.5%(約278万人)です。 理事長の報酬は月100万円を超えることが多く、医療法人ではほとんどの理事長が当てはまります。

75万円で終わりとは限りません

今回の改正には、最高等級の人が加入者全体に占める割合をもとに、上限を改定できるルールも入りました。 75万円の先も、上がる余地があるということです。

理事長の負担は、いくら増えるか

報酬が月73万円以上の理事長(月100万円、150万円の理事長も同じ)で計算します。

時期保険料(本人・法人それぞれ)いまより増える額(それぞれ)本人+法人の増加(年額)
いま(65万円)月5万9,475円--
2027年9月から(68万円)月6万2,220円月2,745円6万5,880円
2028年9月から(71万円)月6万4,965円月5,490円13万1,760円
2029年9月から(75万円)月6万8,625円月9,150円21万9,600円

2029年9月以降は、本人が年10万9,800円、医療法人も年10万9,800円です。 さらに医療法人は、厚生年金の標準報酬月額に0.36%を掛けた「子ども・子育て拠出金」も全額負担しているので、こちらも1人あたり月360円(年4,320円)増えます。

報酬が73万円未満の人は、増え方が途中で止まります。

賞与を除く報酬月額最終的な段増える額(本人・法人それぞれ)
66万5,000円未満変わらない0円
66万5,000円〜69万5,000円未満68万円月2,745円(2027年9月から)
69万5,000円〜73万円未満71万円月2,745円 → 2028年9月から月5,490円
73万円以上75万円月2,745円 → 月5,490円 → 2029年9月から月9,150円

払った分は、年金で少し戻ります

厚生年金は掛け捨てではありません。厚生労働省の試算では、75万円の段に10年いると、65歳からの年金が月約5,100円、一生増えます(2024年度価格)。 本人負担分は社会保険料控除になるので、所得税・住民税も少し減ります。

ただ、医院の経営者から見れば、法人の財布と自分の財布はほぼ一つです。 本人と法人を合わせて月1万8,300円払い、将来の年金が月約5,100円増える。これを得と見るか損と見るかは、何歳まで受け取るかで変わります。 年金の損得の考え方は、医療法人化と社会保険にも書きました。

医師国保の理事長も、厚生年金は別です

医療法人にしたあとも、手続きをして医師国保・歯科医師国保を続けている医院があります。 この手続き(健康保険被保険者適用除外承認)で外れるのは、健康保険だけです。 法人は厚生年金の強制適用事業所なので、報酬を受けて働く理事長は、厚生年金に入ります。

 協会けんぽの医療法人医師国保・歯科医師国保の医療法人
健康保険料報酬に連動(上限139万円)。今回の改正では変わらない組合ごとの決まった額。報酬と関係ない
厚生年金保険料上限が75万円まで上がる上限が75万円まで上がる

医師国保の医療法人では、報酬に連動して動く社会保険料は、ほぼ厚生年金だけです。 「うちは社会保険料が定額だから、報酬を上げても関係ない」は、厚生年金については当てはまりません。 今回の上限引き上げは、医師国保の理事長にもそのまま効きます。

70歳以上の理事長は、保険料がかかりません

厚生年金の被保険者は70歳未満です。70歳を過ぎた理事長は、報酬がいくらでも厚生年金の保険料はかからないので、今回の引き上げの影響も受けません。 ご自身が70歳以上でも、60代の副理事長や後継ぎの先生がいれば、その分は増えます。

個人開業の院長は対象外。でも勤務医の分は医院が払います

個人で開業している院長ご本人は、事業主です。自分の医院の厚生年金には入らず、国民年金です。 院長ご自身の保険料は、今回の改正では変わりません。

ただし、職員が常時5人以上いる個人医院は、厚生年金の強制適用事業所です。 厚生年金保険法で強制適用になる業種に「医療の事業」が入っているからです。 ここで働く勤務医や職員は、厚生年金に入ります。

歯科衛生士や受付の給料が月66万5,000円を超えることはまれです。 当てはまりやすいのは常勤の勤務医・勤務歯科医師です。月100万円の勤務医が1人いれば、2029年9月以降、医院の負担は年10万9,800円増えます(拠出金を除く)。 個人医院の場合、この負担は院長の事業所得の経費になります。

職員が常時5人未満の個人医院は、強制適用ではありません(任意で加入している医院を除きます)。 また、職員の健康保険を医師国保にしている個人医院でも、職員5人以上なら厚生年金は別に入ります。医療法人と同じ考え方です。

個人のまま続けるか、医療法人にするかの判断では、こうした社会保険料の動きも数字に入れてください。医療法人にしないほうがいい人もあわせてどうぞ。

家族の理事・勤務医がいると、人数分増えます

医療法人では、院長の配偶者が理事として報酬を受けていることがよくあります。 上限の引き上げは1人ごとにかかるので、対象者が多いほど法人の固定費が増えます。報酬を1円も上げていなくても、です。以下は「例えば」の試算です。

歯科の例:理事長と、理事の奥様

歯科の医療法人で、理事長の報酬が月120万円、経理と受付をまとめる理事の奥様が月70万円とします。

2029年9月以降最終的な段本人の増加(年)法人の増加(年)
理事長(月120万円)75万円10万9,800円10万9,800円
理事の奥様(月70万円)71万円6万5,880円6万5,880円
合計 17万5,680円17万5,680円

家計と法人を合わせると、年35万1,360円です。奥様の報酬の決め方は医療法人の配偶者給与に書きました。

医科の例:理事長と、常勤の勤務医2人

内科の医療法人で、理事長が月200万円、常勤の勤務医2人が月110万円ずつとします。3人とも75万円の段に入ります。

2029年9月以降、法人の負担は1人年10万9,800円×3人で年32万9,400円増えます。拠出金(1人年4,320円)を足すと年34万2,360円です。 勤務医の先生ご本人の手取りも、1人年10万9,800円減ります。給与の額面は同じでも手取りが減るので、更新の面談で質問されることがあります。

報酬を65万円まで下げればいいのか

保険料だけを見れば、報酬を月65万円以下にすれば増えません。 ただ、それで得になるとは限りません。

例えば月75万円の理事長が月65万円に下げると、厚生年金は本人・法人あわせて年21万9,600円減ります。 一方で、報酬が年120万円減るぶん、医療法人の利益が120万円増え、そこに法人税がかかります。 こちらを下げればあちらで取られる。いたちごっこです。

医療法人には、一般の会社にない事情もあります。

毎月の報酬を低くして賞与に寄せる「社保削減スキーム」も、この改正をきっかけに勧められることがあると思います。 ただし医師国保の医院では効き目が小さいことを役員報酬を賞与に寄せる社保対策に書きました。上限が上がると、その試算も変わります。

結論として、役員報酬は「税金+社会保険料」の合計で、法人と個人を合わせて決めてください。 社会保険料は、名前が違うだけで、税金とほとんど同じ負担です。1年だけでなく、3年、5年、10年でどれだけ払うかで比べます。

院長が今やること

①報酬が月66万5,000円以上の人を書き出す

理事長だけでなく、家族の理事、常勤の勤務医も確認してください。 見るのは賞与を除いた毎月の報酬です。70歳以上の人は対象外です。

②2027年・2028年・2029年の増加額を、法人と本人に分けて出す

第2節の表に、人数を掛けるだけで目安が出ます。 増えるのは2027年9月分の保険料からです。保険料は翌月の報酬から差し引くので、多くの医院では10月に支払う報酬から手取りが変わります。 理事会の資料や、来期の予算・資金繰りに入れておいてください。

③報酬を見直せる時期を、決算月から逆算する

役員報酬を変えられるのは、原則として事業年度が始まってから3か月以内です(医療法人の役員報酬はいくらにすべきか)。 3月決算なら、2027年9月を含む期の報酬は2027年4〜6月に決めます。9月決算なら、それはこの10〜12月です。

④税金と社会保険料を一緒に試算する

報酬を上げる・下げる・据え置く、それぞれで法人税・所得税・住民税・社会保険料の合計を並べます。 個人で使うお金がそれほど要らないなら、法人に残して設備や採用に回す選択もあります。持分の評価とあわせて決めてください。

保険料率は上がらないのに、保険料は上がる。報酬を据え置いても、2027年9月から3年続けて負担が増えます。 今年と来年の報酬は、この改正を知ったうえで決めてください。

理事長報酬、2027年9月からの負担まで含めて決めませんか。

理事長・家族の理事・勤務医の報酬が分かれば、2027年から2029年にかけて法人と個人の負担がいくら増えるかを試算します。 報酬を変えた場合の法人税・所得税との合計も並べて、決算月に合わせた見直しの時期をお伝えします。

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最終更新:2026年10月23日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・社会保険の判断を保証するものではありません。記載の制度・金額・試算は執筆時点(2026年10月)の法令と厚生労働省の公表資料にもとづく概算で、保険料率18.3%・子ども・子育て拠出金率0.36%が変わらない前提です。実際の役員報酬の改定にあたっては、税理士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。