2026年3月に成立した税制改正で、富裕層への課税が強くなりました。 ニュースでは「ミニマムタックスの強化」と呼ばれています。
自費のインプラントや矯正、美容で所得が大きい院長。 理事長報酬を高めに取っている医療法人の理事長。 「年収1億円クラスは、また増税か」と思われたかもしれません。
先に結論を書きます。給料や診療の所得が中心の「年収1億円」の院長は、この改正で税金はほとんど変わりません。 関係してくるのは、医療法人の持分や医院の土地建物を売った年です。 つまり、出口の年です。
この記事では、改正の中身と、年収1億円の院長で計算した税金、そして「どの年に、どの所得が出るか」で何が変わるかを説明します。
この記事の結論
- 2026年の税制改正で、何が変わりましたか。
- 令和8年度税制改正(2026年3月成立)で、超高所得者への上乗せ課税(いわゆるミニマムタックス)が強化されました。対象になる所得のラインが3.3億円から1.65億円に下がり、税率は22.5%から30%に上がります。適用は2027年(令和9年)分の所得からです。
- 年収1億円の院長の税金は変わりますか。
- 給与や事業所得が中心なら、ほぼ変わりません。理事長報酬1億円なら、所得税と住民税で約5,000万円。改正の前も後も同じです。
- では、誰に関係するのですか。
- 株や持分、土地建物の売却益など「税率15%で済む所得」が大きい年の人です。院長なら、医療法人の持分を売る年、医院の土地建物を売る年、株で大きな利益が出た年に関係します。
2026年の改正で、何が決まったのか
今回の話は、正式には「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」といいます。 長い名前なので、この記事では「ミニマムタックス」と呼びます。 所得がとても大きい人に、最低限これだけは所得税を払ってもらうという仕組みです。
この仕組みは、令和5年度税制改正でつくられ、2025年(令和7年)分の所得から始まっています。 そして、2025年12月の大綱を経て2026年3月31日に成立した令和8年度税制改正で、強化されることになりました。 タイトルの「2026年の税制改正」は、この令和8年度改正のことです。
| 2025年・2026年分(いまのルール) | 2027年分から(改正後) | |
|---|---|---|
| 上乗せの対象になる所得のライン | 3億3,000万円 | 1億6,500万円 |
| 税率 | 22.5% | 30% |
| 計算のしかた | (年間の所得 − ライン)× 税率 が、ふつうに計算した所得税を上回るときだけ、その差額を上乗せして納めます | |
大事なのは、2026年(今年)の所得は、まだいまのルールだということです。 改正後のルールは、2027年1月以後の所得から使われます。
給与・事業所得だけでなく、株や持分の売却益、土地建物の売却益、退職金(2分の1にした後の金額)なども合計します。
上場株の配当や、源泉徴収ありの特定口座の売却益のように、確定申告をしなくてよいものも含めて判定します。
一方で、NISAの利益などの非課税の所得は入りません。
自宅を売ったときの3,000万円控除のような特別控除は、控除した後の金額で判定します。
なお、これは国の所得税だけの話です。住民税には、この上乗せはありません。
なぜ、所得が多いほど負担率が下がるのか
日本の所得税は、所得が増えるほど税率が上がります。 いちばん上は45%。住民税の10%と合わせて最高55%です。 給与・事業所得・不動産所得などは、この税率で課税されます。
ところが、株の売却益や、土地建物の売却益は、別枠で税率が決まっています。 株の売却益は所得税15%(ほかに住民税5%)。5年を超えて持っていた土地建物の売却益も、所得税15%(住民税5%)です。 いくら大きくても、この税率のままです。
所得がとても大きい人ほど、所得の中で株などの売却益の割合が高くなります。 そのため、所得がある水準を超えると、かえって税負担の割合が下がっていきます。 これが「1億円の壁」と呼ばれてきた現象です。
ミニマムタックスは、この壁を少しでも直すための仕組みです。 だから、上乗せが出るかどうかは「所得がいくらか」より「所得のうち15%で済む部分がどれだけあるか」で決まります。
年収1億円の院長で計算してみます
では、年収1億円の院長で計算します。 ①医療法人の理事長で、理事長報酬が年1億円の場合。 ②個人開業で、事業所得(売上から経費を引いた後)が1億円の場合。 この2つです。
| ①理事長報酬1億円 | ②個人開業・事業所得1億円 | |
|---|---|---|
| 給与所得控除 | 195万円(上限) | なし |
| 所得 | 9,805万円 | 1億円 |
| 基礎控除 | 0円(所得2,500万円超) | 0円(所得2,500万円超) |
| 所得税(税率45%) | 3,932万6,500円 | 4,020万4,000円 |
| 復興特別所得税など(所得税の2.1%) | 約82万6,000円 | 約84万4,000円 |
| 住民税(所得割10%) | 980万5,000円 | 1,000万円 |
| 合計 | 約4,996万円 | 約5,105万円 |
| 改正前との差 | ほぼゼロ。ミニマムタックスの上乗せも、どちらもゼロ | |
前提は、所得控除は基礎控除だけ(社会保険料・生命保険料などは入れない)、住民税の均等割は除く、です。 実際には社会保険料などが引けるので、もう少し下がります。 個人開業の場合は、自費の部分に個人事業税もかかります。
どちらも年収のおよそ半分が税金です。そして、改正の前後で変わりません。理由は3つです。
| 改正の項目 | 年収1億円の院長への影響 |
|---|---|
| ミニマムタックスの強化 | 所得が1億円前後なら、ライン(1億6,500万円)に届きません。届いたとしても、45%で課税されている所得なので、上乗せは出ません |
| 基礎控除・給与所得控除の引上げ | 基礎控除が増えるのは所得2,350万円以下の人です。給与所得控除の引上げも、最低額の部分だけです。上限195万円は据え置きなので、年収1億円の院長は対象外です |
| 防衛特別所得税の創設 | 2027年1月から、所得税の1%の「防衛特別所得税」が新しくかかります。そのかわり復興特別所得税が2.1%から1.1%に下がるので、合計は2.1%のままです。ただし復興特別所得税がかかる期間は、2037年分までから2047年分までへ10年延びました |
つまり、給料や診療で稼ぐ「年収1億円」には、今回の改正はほとんど関係ありません。 理事長報酬の手取りを増やしたいなら、見るべきは改正ではなく、 報酬額そのものの決め方や、 法人と個人での所得の分け方です。
上乗せが出るのは「15%の所得」が大きい年
では、どんなときに上乗せが出るのか。 財務省の資料では、所得が全部、税率15%の売却益なら、年間所得およそ3.4億円から追加の負担が出ると示されています。 いまのルールで同じ計算をすると、およそ10億円を超えないと出ませんでした。ラインが大きく下がったわけです。
例えば、ほかに所得がない年に、持分や株を売って5億円の売却益が出たとします。
| 売却益5億円の年 | 2026年分(いまのルール) | 2027年分から |
|---|---|---|
| ふつうの所得税(5億円×15%) | 7,500万円 | 7,500万円 |
| ミニマムタックスの計算 | (5億円−3.3億円)×22.5%=3,825万円 | (5億円−1.65億円)×30%=1億50万円 |
| 上乗せ | 0円(7,500万円を下回る) | 2,550万円(1億50万円−7,500万円) |
同じ5億円の売却益でも、売った年によって所得税が2,550万円変わる計算です (このほか、上乗せ分にも復興特別所得税などがかかります)。
理事長報酬1億円をもらっている年なら、どうか。 給与は45%で課税されているので、上乗せを押し上げません。 計算すると、売却益がおよそ4億円を超えたあたりから上乗せが出始めます。
理事長の退職金も、2分の1にした後の金額が合計に入ります。 ただ、退職金は2分の1にした後に給与と同じ高い税率で課税されます。 税率が30%を超える所得は、ミニマムタックスの計算ではむしろ上乗せを減らす方向に働きます。 上乗せを生むのは、あくまで15%で済む所得です。
院長が関係するのは、出口の年です
院長が「税率15%の大きな所得」を手にする場面は、ほぼ決まっています。 医院の出口と、資産の売却です。
| 場面 | どんな所得になるか | ミニマムタックスとの関係 |
|---|---|---|
| 持分のある医療法人の持分を、第三者に売る(M&A) | 株と同じ扱いの売却益。税率15%(住民税5%) | 関係しやすい。売却益が数億円になると上乗せの対象に |
| 持分の払戻しを受けて退社する | 出資額を超える部分は、原則として「配当」とみなされ、給与と同じ高い税率 | 上乗せは出にくい。ただし税負担そのものが重い |
| 持分のない医療法人で、理事長を退任する | 退職金(退職所得)が中心 | 上乗せは出にくい |
| 個人開業の医院の土地・建物を売る | 5年超の所有なら税率15%(住民税5%) | 関係しうる。売却益が大きい場合 |
| 上場株・投資信託で大きな利益を確定する | 税率15%(住民税5%)。特定口座でも合計に入る | 関係しうる |
歯科の例です。 2007年4月より前に設立した、持分のある歯科の医療法人。 70歳の理事長が、近くの歯科グループに法人ごと譲ることにしました。 出資は設立時の数百万円でも、長年の利益が積み上がっていれば、持分の値段は数億円になることがあります。 この売却益が出る年が2027年以後なら、上乗せの対象になりえます。 持分の相続で何が起きるかは、持分あり医療法人の相続に書きました。
医科の例です。 個人で整形外科を開業し、自分の土地に医院を建てた院長。 駅前の再開発で、土地を高く売れることになりました。 売却益がおよそ3.4億〜4億円を超えると(その年のほかの所得によります)、2027年以後は上乗せが出る水準です。
どちらも、ふだんの年収は関係ありません。 「何を、いつ売るか」で決まります。
所得は「どの年に、どの形で出すか」で変わる
ミニマムタックスは、1年ごとに判定します。 ですから、院長が見るべきなのは「年収」ではなく、どの年に、どの所得が、どれだけ出るかです。 考え方は3つあります。
① 大きな所得を、1年に集めない
5億円の売却益が1年に出れば、上乗せは2,550万円。 同じ5億円が、2年に分けて2.5億円ずつなら、どちらの年もラインの計算で上乗せは出ません。 土地を2回に分けて売る、持分を段階的に譲る、上場株の利益確定を数年に分ける、といった形です。
ただし、代金を分割で受け取るだけでは、原則として引き渡した年にまとめて所得になります。 分けるなら、売る(引き渡す)こと自体を分ける必要があります。
② 出口のお金を、どの形で受け取るか
医療法人の出口では、同じ金額でも退職金で受け取るか、持分の売却代金で受け取るかで税金が変わります。 退職金は2分の1課税があり、ミニマムタックスの上乗せも生みにくい形です。 ただし、法人の経費にできるのは不相当に高額でない金額までです。 詳しくは理事長退職金と、 医療法人の出口|継ぐ・譲る・閉じるをご覧ください。
③ ふだんの年は、所得を一人に集めない
ふだんの年の対策は、改正前と同じです。 理事長個人に所得を集めると、45%の税率がかかる部分が増えます。 家族を理事にして報酬を分ける、 法人に残すか個人に渡すかを決める。 こうした所得の分け方が、年収1億円の院長にはいちばん効きます。
2026年中に売れば上乗せはありません。ただ、出口の時期は、後継者・スタッフ・患者さん・相手先の都合で決まるものです。 税金を理由に急いで条件の悪い相手に譲れば、手残りはかえって減ります。 時期が決まったら、その年の所得の出方を設計する。この順番です。
院長が今やること
今回の改正で、年収1億円の院長がすぐに慌てることはありません。 そのうえで、次の3つを確認してください。
| やること | |
|---|---|
| ① | この先5〜10年で「売るかもしれないもの」を書き出す。医療法人の持分、医院や自宅の土地建物、株・投資信託。それぞれの、ざっくりした売却益も |
| ② | 出口の形を決める。身内に継ぐか、他人に譲るか、閉じるか。持分があるかないか。退職金をいくら出せるか。出口の考え方も参考にしてください |
| ③ | 売却益が数億円になりそうなら、売る年の前年までに試算する。1年にまとめるか、分けるか、退職金と組み合わせるか。2027年以後は、この試算で数千万円変わることがあります |
所得や財産が大きい院長は、財産債務調書の提出が必要になっていないかも、あわせて確認してください。
税金は「年収」で決まるのではありません。 どの年に、どの所得が、どの形で出るかで決まります。 出口は一度きりです。早めに数字を並べておいてください。
出口の年の税金を、先に試算します。
医療法人の持分を譲る、医院の土地建物を売る、理事長を退任する。 その年の所得がいくらになり、上乗せが出るかどうかを、退職金との組み合わせも含めて試算します。 まだ時期が決まっていない段階でも結構です。
無料相談を申し込む9つの質問で、先生の医院で「できそうな節税」だけを選び出します。
LINEにご登録いただいた先生に、限定ページ「医療法人の節税チェックリスト(84項目)」をお送りしています。
9つの質問に答えるだけ(約2分)で、84項目の中から先生の医院でできそうなものだけが残る「かんたん診断」付き。
結果からそのまま解説記事に飛べて、チェックした内容はスマホに残ります。
LINEで、節税チェックリスト84項目を受け取る
※ こちらから営業のご連絡をすることはありません。
※ 決算書などの資料は、セキュリティのためLINEではお送りにならないでください。
個別のご相談はお問い合わせフォームからお願いします。
最終更新:2026年10月10日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・税率・計算例は執筆時点(2026年10月)の法令等にもとづく概算であり、その後の改正等により変わる場合があります。持分の譲渡・不動産の売却・退職金などの実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。