はじめにお断りしておきます。
この記事は「節税」のカテゴリに置いていますが、内容としては節税というより、資金調達と経営基盤の話です。
税金を減らす話ではありません。
それでも先生方にお伝えしたいのは、借入の条件を良くすることが、手元に残るお金という意味では節税と同じくらい効いてくる場面があるからです。
その入口になるのが、商工会議所です。
開業医の先生にとっては縁遠く見えるかもしれませんが、会員になって経営指導を受けると、無担保・無保証人・低金利という条件で日本政策金融公庫から借りられる「マル経融資」という制度の対象になり得ます。
この記事では、その仕組みと、医療法人にとっての使いどころ、そしてそもそも対象になるのかという確認ポイントを整理します。
この記事の内容を、動画でも解説しています。
この記事の結論
- マル経融資とは何ですか。
- 正式には小規模事業者経営改善資金といいます。
商工会議所(商工会)の経営指導員から経営指導を受けたうえで推薦を得て、日本政策金融公庫から無担保・無保証人・低金利で借りられる制度です。
代表者の連帯保証も不要なため、理事長個人の資産を融資のリスクから切り離せる点が大きな特徴です。 - 医療法人でも使えますか。
- 対象になり得ますが、断言はできません。
従業員数の上限(業種区分によって20人以下または5人以下)や業種の取扱い、商工会議所ごとの運用によって判断が分かれます。
使えるかどうかは、必ず所轄の商工会議所と公庫に個別確認してください。 - 今日から申し込めますか。
- できません。原則として一定期間(おおむね6か月以上)の経営指導を受けていることが前提になります。
必要になってから動くのでは間に合わない制度です。使う予定が立つ前に会員になっておくのが、この制度の正しい向き合い方です。
なぜ医療法人が商工会議所なのか
医師会には入っているけれど、商工会議所という選択肢は考えたこともなかった。開業医の先生からは、よくそう言われます。
無理もない話で、商工会議所は地域の商工業者の団体であり、医療機関のための組織ではありません。
ただ、医療法人も「地域で人を雇い、設備投資をし、資金を回している事業体」であることに変わりはありません。
医師会が診療そのものを支える組織だとすれば、商工会議所は経営の側面を支える組織です。
役割が違うので、どちらかを選ぶという話ではなく、両方に足を置いておくという発想になります。
商工会議所の会費は、事業規模に応じて年間数万円程度からというケースが一般的です(金額は各地の商工会議所によって異なります)。
この会費で、経営指導・各種セミナー・共済制度・そしてマル経融資という入口が開くと考えると、費用対効果としては検討に値します。
マル経融資の中身——無担保・無保証人・低金利
マル経融資は、商工会議所や商工会の経営指導員による経営指導を受けた小規模事業者に対して、日本政策金融公庫が融資を行う制度です。
指導を担うのが商工会議所、実際にお金を貸すのが公庫、という役割分担になっています。
条件面の特徴を整理すると、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 担保 | 不要 |
| 保証人 | 不要(法人の場合でも代表者の連帯保証を求められない扱い) |
| 金利 | 一般の融資に比べて低い水準に設定されています。ただし適用金利は見直されるため、申込時点の公表値を必ず確認してください |
| 融資限度額 | 制度上の上限が定められています(数千万円規模)。現行の金額は公庫の最新の案内で確認を |
| 返済期間 | 運転資金・設備資金とも10年以内で、いずれも据置期間(2年以内)を設けることができます |
| 資金使途 | 運転資金・設備資金 |
このなかで、医療法人の先生にとっていちばん意味が大きいのは「保証人が不要」という点だと考えています。
金利の低さはもちろんありがたいのですが、理事長個人が連帯保証を負わないという条件は、金額の大小では測れない価値があります。
万一のときに個人資産や相続に波及しない借入は、それだけで経営の選択肢を広げます。
金利・限度額・返済期間といった条件は、制度の改定によって変わります。ネット上に残っている数字は古い時点のものであることが少なくありません。
実際に検討する際は、必ず日本政策金融公庫と所轄の商工会議所で、その時点の条件を確認してください。
医療法人は対象になるのか——要件の確認ポイント
ここが、この記事でいちばん正直にお伝えしておきたいところです。医療法人が必ずマル経融資を使えるとは言えません。
制度は「小規模事業者」を対象としており、その線引きに当てはまるかどうかが問題になります。
確認すべき主な要件
- 従業員数——常時使用する従業員数に上限があります。
原則は20人以下ですが、商業・サービス業に区分される場合は5人以下と、かなり厳しくなります。
医療機関がどちらに区分されるかは確認が必要です - 業種——制度上、対象外とされる業種があります。医療業の取扱いは所轄の窓口に確認してください
- 経営指導の期間——おおむね6か月以上、商工会議所の経営指導を受けていることが前提です
- 事業の所在——原則として、その商工会議所の地区内で一定期間以上事業を行っていること
- 納税の状況——税金を完納していること
- 商工会議所の推薦——経営指導員の推薦を経て、公庫へ申し込む流れになります
とくに従業員数の要件は、多くのクリニックにとって現実的なハードルになります。
看護師・受付・医療事務を含めて数えたときに、5人以下という基準に収まる医療法人は限られるでしょう。
この一点で対象外になる可能性があることは、先に知っておいていただきたいところです。
従業員数の数え方(常勤・非常勤の扱い)、業種区分の当てはめ、そして医療法人という法人形態の取扱いは、制度の解釈と各地の運用によって結論が変わり得る論点です。
当事務所として「医療法人なら使えます」と言い切ることはしません。
先生の法人が対象になるかは、所轄の商工会議所と日本政策金融公庫に直接ご確認ください。ご希望があれば、確認すべき論点の整理はお手伝いします。
資金調達だけではない、商工会議所の使い道
仮にマル経融資の対象にならなかったとしても、商工会議所に入る意味がなくなるわけではありません。むしろ融資は入口の一つにすぎず、日常的に効いてくるのは別のところだと感じています。
1つ目は、経営指導員に相談できることです。経営指導員は、地域の中小企業の経営を数多く見ている実務家です。
診療の中身は専門外ですが、人を雇う・設備を入れる・資金を回すという経営の共通部分については、率直な意見が返ってきます。
顧問税理士とはまた違う角度の視点が得られます。
2つ目は、補助金・助成金の情報です。各種の補助金は公募期間が短く、気づいたときには締切という制度が少なくありません。
商工会議所は申請支援の窓口になっていることが多く、情報が早く入るルートを一つ持っておくという意味があります。
3つ目は、他業種とのつながりです。これは数字に表れにくい効果ですが、地域の経営者と接点ができることは、採用・不動産・事業承継といった場面で意外な形で効いてきます。
医療の世界だけで完結しないネットワークを持っている先生ほど、経営判断の選択肢が多いというのが実感です。
商工会議所は、小規模企業共済や経営セーフティ共済(倒産防止共済)といった制度の案内窓口にもなっています。
これらは掛金の取扱いを通じて税務にも関係してくる制度です。
ただし医療法人・理事長の立場で加入できるかは制度ごとに要件が異なるため、加入の可否は個別にご確認ください。
分院展開・医療機器の更新という場面で
医療法人がまとまった資金を必要とする場面は、だいたい決まっています。
分院の開設、医療機器の更新、内装のリニューアル、電子カルテなどのシステム入替え。
いずれも数百万円から数千万円の単位になります。
こうした場面で、多くの先生はメインバンクに相談されると思います。それ自体は正しい進め方です。
ただ、借入先を1本に絞ってしまうと、条件の比較ができません。公庫の制度融資という選択肢を持っているだけで、金利や保証の条件について交渉の材料が増えます。
そして繰り返しになりますが、マル経融資は「必要になってから申し込む」ことができない制度です。
経営指導を受けた実績が前提になるため、資金需要が見えていない今のうちに会員になり、相談の履歴を作っておくことに意味があります。
分院を出すと決めてから商工会議所の門を叩いても、その案件には間に合いません。
「マル経融資を使うために商工会議所に入る」のではなく、「経営の相談先を一つ増やしておいたら、結果として資金調達の選択肢も増えた」という順序で考えるほうが、実態に合っています。
対象要件に当てはまらない可能性もある以上、融資だけを目的に入会を決めるのはおすすめしません。
資金調達の選択肢、いまの体制で足りていますか。
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最終更新:2026年9月1日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・取扱いは執筆時点(2026年8月)のものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。