「借入の相談に行く前に、計画書をきちんと作っておきたい」。 そう考える院長は多いと思います。

いまはAIに決算書を読ませれば、計画書の下書きはかなりのところまで自分で作れます。 それでも「この数字で本当に大丈夫か、一度プロに見てほしい」と感じるはずです。

その専門家に払う費用の3分の2を、国が負担する制度があります。 上限は合わせて80万円です。 そして、医療法人も、個人の医院も使えます。

ただし、補助があるから作る、という順番は逆です。 この記事では、制度の中身と、AIと専門家をどう使い分けるかをお伝えします。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

医療法人や個人の開業医でも使えますか。
使えます。制度の名前は「早期経営改善計画策定支援」です。中小企業庁のマニュアルで、医療法人(常時使用する従業員が300人以下)は対象と明記されています。個人の開業医は「個人事業主」として対象です。最終的な判断は、県ごとに置かれた国の窓口(中小企業活性化協議会)が行います。
いくら出ますか。
専門家に払う費用(消費税込み)の3分の2です。上限は計画づくり50万円+計画後3年間のフォロー30万円=80万円。お金が振り込まれるのではなく、専門家への支払いの一部を国が持つ仕組みです。
使う前に、何をすればいいですか。
「何のために作るか」を先に決めることです。次の融資、スタッフの採用、機器の入れ替え。目的が決まったら、まず自分(とAI)で下書きを作り、専門家に突っ込んでもらう。これがいちばん早く、安く済みます。

医療法人も個人の医院も、対象です

動画で取り上げたのは、中小企業庁の「早期経営改善計画策定支援」という制度です。 国が認定した専門家(認定経営革新等支援機関。税理士・中小企業診断士・金融機関など)の手を借りて、 資金繰りの計画や行動計画を作るときに、その費用の一部を国が負担します。

「中小企業向けの制度だから、医療は関係ない」と思われがちです。 ここは、はっきり書いておきます。

医院の形使えるか中身
医療法人使えます常時使用する従業員が300人以下なら対象。マニュアルに「本事業の対象事業者としています」と明記されています
個人の開業医使えます「個人事業主」として対象。申込みには登記簿の代わりに開業届か確定申告書の写しを出します
MS法人(株式会社など)使えますふつうの中小企業として対象。ただし原則として医療法人とあわせて1件の扱いになります(後述)

医療法人は、法律上の「中小企業者」には入りません。 それでも、この制度ではわざわざ対象に加えています。 反対に、社会福祉法人・NPO法人・一般社団法人などは対象外です。 医療と福祉の両方をやっている先生は、どの法人で申し込むかに注意してください。

開業して1年たっていない医院は、まだ使えません

12か月以上の診療の実績があり、決算(個人なら確定申告)を1回終えていることが条件です。 個人の医院を法人にしたばかりのときは、個人のときの実績を通算できます(確定申告書で証明できる場合)。

国が持つのは、費用の3分の2

国が負担するのは、専門家に払う費用(消費税込み)の3分の2です。 費用の種類ごとに上限があります。

費用の種類国の負担上限
計画づくり3分の250万円
計画後のフォロー(3年間・年2回以上)3分の230万円
事業承継の相手探しの資料づくり(任意)3分の210万円を加算
理事長の個人保証を外すための金融機関交渉(任意)3分の210万円を加算

例えば、計画づくりに75万円、フォローに45万円、合計120万円(税込)かかるとします。

 費用国の負担院長の負担
計画づくり75万円50万円25万円
フォロー45万円30万円15万円
合計120万円80万円40万円

120万円の専門家の支援を、40万円で受けられる計算です。 国の負担分は、国の窓口から専門家へ直接支払われます。院長がいったん全額を立て替える必要はありません。

逆に言えば、3分の1は必ず自分で払います。 ここが、次の話につながります。

計画は、補助金のために作るものではありません

「80万円出るなら、やらないと損」。 そう考えた時点で、順番が逆になっています。

計画書は何のために作るのか。 中小企業なら、いちばんの答えは銀行から借りるため、つまり資金繰りのためです。 このままいくと、半年後に現金はいくら残るのか。足りるのか、借りる必要があるのか。 それを判断する道具です。

そして本当は、院長ご自身のためです。

 計画で確かめたいこと(例)
歯科歯科衛生士をもう1人採用して、ユニットを1台増やしても、返済と給与を払って現金が残るか。インプラント・矯正の自費が月にいくらあれば回るか
医科内視鏡を入れ替えて検査を増やしたら、何年で返せるか。看護師の採用が遅れて、患者さんを1割断る状態が続いたら、資金はどこで苦しくなるか
共通医業収入が10%下がっても、借入を返し続けられるか

こうした問いに数字で答えを出すのが、計画です。 必要だから作る。そのときに補助が使えたら助かる。補助は「たまたま合えばラッキー」くらいでちょうどいいのです。

補助金が先に立つと、本来やらなくてよい投資や事業に手を出して、補助金以上に損をすることがあります。 設備の補助金でも同じです。補助金は後払いで、順番が大事という話も、あわせて読んでみてください。

「売上を頑張って増やす」は、計画ではありません

この制度で作るのは、何を・誰が・いつまでにやるかの行動計画と、その結果として数字がどう動くかの見通しです。 「自費を増やす」ではなく、「カウンセリングの時間を週◯枠つくる」「リコールの案内を毎月◯日に出す」。 ここまで落とせば、院長は毎月それを淡々とやるだけになります。

AIに任せるところ、人に払うところ

国の窓口が求める計画は、次の5つです。

作るもの中身
ビジネスモデル俯瞰図患者さん・スタッフ・取引先とのお金の流れを1枚の図に
課題と方針現状を分析して、医院の課題と解決の方向を整理
行動計画(アクションプラン)課題を「何を・誰が・いつまでに」に落とす
損益の計画行動計画の効果を、医業収入・経費・利益の数字に
資金繰り表(実績と計画)これまでの入出金を分析し、この先の現金の見通しを立てる

このうち、文章と表を作るのはAIが得意です。 決算書や試算表の数字を渡して、単価・患者数・人件費・返済を一緒に詰めていけば、たたき台はかなりの精度でできます。

一方で、AIが苦手なところがあります。

AIに任せる人(専門家)に払う
決算書・試算表の整理、表の形を整える外から見た指摘。自分の医院は自分では見えません。「岡目八目」です
売上や経費の試算、複数のパターン出しその数字で銀行が納得するかの目利き
課題や打ち手のアイデア出し3年間の伴走。計画と実績のずれを一緒に見て、次の手を決める
文章の下書きときには厳しいことを言う役。AIは優しすぎることがあります

だから、AIか専門家か、ではありません。 AIで下書きを作り、専門家に突っ込んでもらい、一緒に形にする。いいとこ取りです。

やってはいけないのは丸投げです。 専門家に丸投げしても、AIに丸投げしても、それらしい計画書はできます。 でも院長が自分の言葉で説明できない計画は、実行されません。 この補助も税金です。動くつもりのない計画に使うのは、もったいないことです。

使う前に知っておきたい7つの条件

 条件
①使えるのは1回だけ。過去にこの制度や、同じ系統の経営改善計画の支援を使ったことがあると対象外です
②メインバンクへの事前相談が必要。「計画を作る相談を受けた」という書面(事前相談書)をもらいます。借入がなくても、決済口座のある銀行が書いてくれれば使えます
③申込みが受け付けられる前の作業は対象外。先に作り始めた分は補助されません
④返済を待ってもらう(リスケ)計画は対象外。新しい借入や借換えを計画に入れるのは構いません
⑤顧問税理士にも頼めます。ただし顧問契約とは別に契約し、顧問料や決算料とまとめて払うことはできません。自己負担分は銀行振込だけです
⑥医療法人とMS法人は、原則あわせて1件。経営者が同じ(生計を同じくする親族も同じとみなす)グループは、申込みも上限80万円もグループで1つです
⑦計画後3年間のフォローは義務。最初の決算から3年間、決算期を含めて年2回以上、進み具合を確かめて銀行と国の窓口に報告します。やらないと、補助の返還を求められることがあります

④について補足します。 すでに返済が苦しく、返済を待ってもらう必要がある医院は、この制度ではなく、 同じ中小企業庁の「経営改善計画策定支援(通常枠)」の出番です。 こちらは計画づくり200万円、フォロー100万円が上限(いずれも費用の3分の2)です。 資金が本当に苦しいときは、計画より先に銀行へ相談してください。 どこから払うかの優先順位も先に確認しておくと安心です。

⑥は、MS法人を持つ先生がつまずきやすいところです。 医療法人とMS法人で別々に80万円ずつ、とはなりません。

申込みから補助が出るまでの流れ

順やることだれが
1認定を受けた専門家を選び、見積りをもらう院長
2メインバンクに「計画を作る」と伝え、事前相談書をもらう院長・専門家
3福岡県の中小企業活性化協議会に、専門家と連名で申し込む。書類がそろっていればおおむね1週間(内容によって2〜3週間)で結果が出ます専門家(代理提出できます)
4計画を作る。銀行に出す前に、協議会に案を見せて助言を受けます院長・専門家
5銀行に計画を出し、受取書をもらう。院長は自己負担分(3分の1)を専門家に振り込む院長・専門家
6協議会に支払いを申請。国の負担分が専門家に支払われる専門家
73年間、年2回以上、計画と実績を比べて銀行と協議会に報告院長・専門家

申込みが受け付けられてから1年以内に、計画を銀行に出して支払申請まで終える必要があります。 申込みの期限はなく、いつでも受け付けています。

計画を銀行に出しても、融資が約束されるわけではありません。 ただ、医院の状況と方針が数字で伝わるので、次の融資や借換えの相談はぐっと進めやすくなります。 銀行が決算書のどこを見ているかは、銀行が見ている決算書のどこにまとめました。

院長が今やること

順やること
1「何のために作るか」を1行で書く。例:「2年後にユニットを1台増やす融資を受けたい」「内視鏡の入れ替えを返せるか確かめたい」
2直近3期の決算書(申告書)と、今期の試算表をそろえる。申込みにも直近3年分の申告書の写しが要ります
3AIと壁打ちして、下書きを作ってみる。自分の言葉で説明できるか、腹に落ちるかを確かめます
4腹に落ちないところ、自信がないところが見えたら、専門家に相談。この制度を使うかどうかは、そこで決めれば十分です
5MS法人がある、過去に似た支援を受けた、という先生は、対象になるかを最初に確認する

計画を作ると、院長が「今日、何をやるか」で迷わなくなります。 スタッフは仕事を渡されるから、淡々と進められます。院長は自分で選べる分、選ぶのに疲れます。 計画は、その選ぶ手間を先に済ませておくためのものです。

作って終わりではなく、計画して、動いて、数字で確かめて、また直す。 その3年間に国が費用の3分の2を出してくれる。 本気で医院を良くしたい先生にとっては、使わない理由のない制度です。

当事務所の料金と、補助を差し引いた先生のご負担は、 経営改善計画の補助金のページに載せています。 手元の資金の見通しから始めたい先生は、資金繰りを楽にする最初の一手もどうぞ。 なお、福祉医療機構の物価高騰対応資金で無利子の枠を使うときも、機構の様式で経営改善計画書を出します。数字の見通しを一度作っておくと、こうした場面でも慌てずに済みます。

この制度が使えるか、先にお調べします。

直近の決算書を拝見して、医療法人・個人の医院のどちらで、対象になりそうか、 MS法人や過去の支援の有無で引っかからないかをお伝えします。 AIで作った下書きをお持ちいただいても結構です。そこから一緒に、銀行に出せる計画に仕上げます。

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最終更新:2026年10月17日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、補助の対象となることや融資の実行を保証するものではありません。記載の制度・上限額・手続きは執筆時点(2026年10月)の中小企業庁の手引き・マニュアルによるもので、その後の改訂により変わる場合があります。実際のご利用にあたっては、中小企業活性化協議会および認定経営革新等支援機関である税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。