年末調整の書類を、スタッフに配る時期が来ます。 歯科衛生士さん、看護師さん、受付さん。みなさん「医院が計算してくれる」と思っています。

でも、年末調整は医院が全部やってくれる手続きではありません。 スタッフが出した書類だけで計算します。 生命保険の証明書を出し忘れれば、その分は入りません。 そして、払いすぎた税金に気づく人は誰もいません。本人も、医院もです。

この記事では、出し忘れやすい7つをチェック表にしました。 書類を配るときに、そのまま添えてください。 医療法人の理事長も、医療法人から給与を受けて年末調整をしていれば、同じ7つが当てはまります(給与が年2,000万円を超える理事長は年末調整の対象外で、確定申告で同じ確認をします)。

個人開業の院長ご自身は確定申告ですが、スタッフの年末調整は医院の仕事です。 2026年分は改正で扶養の線が動いていますので、例年どおりに配るだけでは拾いきれません。

この記事の内容を、動画でも解説しています。

この記事の結論

年末調整は、何をもとに計算するのですか。
医院が知っているのは、払った給与と、給与から天引きした保険料だけです。それ以外はスタッフが出した申告書と証明書だけで計算します。出していないものは、控除されません。
出し忘れやすいのは、どれですか。
生命保険、地震保険、自分で払った国民年金・国保、iDeCo、別居の親、配偶者と子の年収、住宅ローン控除の2年目以降の7つです。おまけとして、ふるさと納税のワンストップ特例は、確定申告をすると消えます。
出し忘れたら、もう取り戻せませんか。
取り戻せます。翌年1月末までなら、医院で年末調整をやり直せます。それを過ぎても、本人が確定申告(還付申告)をすれば、翌年1月1日から5年間はさかのぼれます。

年末調整は「出した書類だけ」で計算します

年末調整は、1年分の給与にかかる所得税を、12月に正しい金額に合わせ直す手続きです。 毎月の給与から引いている源泉所得税は、あくまで仮の金額です。

医院の給与ソフトに入っているのは、給与の額と、社会保険料など給与から天引きしたものだけです。 スタッフが個人で入っている保険、別居の親への仕送り、住宅ローンは、医院からは見えません。 書類が出てこなければ「ない」として計算します。

動画でもお話ししましたが、年末調整は「会社がやってくれる手続き」ではなく、「自分が情報を出して、会社に計算してもらう手続き」です。 出し忘れて損をしても、医院の側では気づけません。 だから、配る段階で「これは出しましたか」と聞いておくのが、いちばん確実です。

2026年分の年末調整は、改正の年です

令和8年度の税制改正で、基礎控除と給与所得控除の最低額が上がり、扶養に入れる家族の年収の線も変わりました。 国税庁の案内では、改正で新しく扶養の要件を満たす家族がいる人は、扶養控除等申告書を出し直す必要があります。 ⑥で数字をまとめています。

スタッフに配るチェック表(7つ)

まず一覧です。この表を印刷して、申告書と一緒に配ってください。

確認項目用意するものこんな人は要注意
□① 生命保険料保険会社から届く控除証明書個人で生命保険・医療保険・個人年金に入っている人
□② 地震保険料損害保険会社から届く控除証明書自宅の地震保険に入っている人
□③ 自分で払った国民年金・国保国民年金の控除証明書(または領収書)、国保の支払額のメモ今年転職してきた人、家族の国民年金を払っている人
□④ iDeCo国民年金基金連合会から届く払込証明書(はがき)自分の口座からiDeCoを払っている人
□⑤ 別居の親の扶養仕送りの記録、親の年金額が分かるもの実家の親に仕送りや施設代を出している人
□⑥ 配偶者・子の年収家族の今年の年収の見込み配偶者や大学生の子がパート・アルバイトをしている人
□⑦ 住宅ローン控除(2年目以降)税務署から届く申告書兼証明書、銀行の残高証明書去年までに家を買って、1年目を確定申告した人

証明書が年末調整に間に合わないときも、あきらめなくて大丈夫です。 国税庁の扱いでは、翌年1月末までに証明書を出すことを条件に、控除を入れて年末調整をしてよいことになっています(保険料・国民年金・iDeCoの証明書)。

保険と年金の4つ(①〜④)

① 生命保険料:証明書を捨てない

秋になると、保険会社から控除証明書がはがきや封書で届きます。 これを「よく分からない郵便」として捨ててしまうのが、いちばん多い出し忘れです。 なくした場合は、保険会社に再発行を頼めます。

2026年分と2027年分は、23歳未満の扶養親族(子など)がいる人について、一般の生命保険料の控除の上限が4万円から6万円に上がりました(2012年以降に結んだ契約の分)。 生命保険・介護医療・個人年金を合わせた上限12万円は変わりません。 子育て中のスタッフは、例年より控除が増えることがあります。

動画では、この証明書を保険を見直すきっかけにしてほしいとお話ししています。 年10万円の保険料は、10年で100万円です。 誰に勧められて、何の保障に入っているのか。院長ご自身の分から、一度並べてみてください。 医師向けの保険の勧め方については、医師に保険の営業が多い理由に書きました。

② 地震保険料:投資用の物件の分は入れない

地震保険料控除の対象は、本人や生計を一にする家族が持っていて、住んでいる家と、生活用の家財の地震保険です。

先生方に多いのが、投資用マンションの地震保険の証明書も一緒に届くケースです。 人に貸している物件の保険料は、不動産所得の経費になるもので、地震保険料控除には入りません。 個人開業の医院の建物の保険も同じで、医院の経費の側で扱います。

③ 自分で払った国民年金・国保:転職のすき間に注意

例えば、歯科衛生士さんが3月に前の医院を辞めて、5月からうちの医院に来たとします。 空いた4月は、国民年金と国民健康保険(または健康保険の任意継続)を自分で払っているはずです。 この分は、本人が申告しないと医院には分かりません。

また、従業員が少ない個人開業の医院では、スタッフが厚生年金ではなく国民年金に、健康保険も医師国保・歯科医師国保などの組合に入っていることがあります。 その保険料を給与から天引きせず、本人が直接払っているなら、毎年この③に当たります。

④ iDeCo:自分の口座から払っている人

iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は、全額が所得から引けます。 本人の口座から引き落としている人は、国民年金基金連合会から届く払込証明書(圧着はがき)を添えて申告します。

医院が給与から天引きして払っている場合(事業主払込)は、医院の側で集計されるので書類は要りません。 どちらの払い方なのかを、スタッフ本人が知らないこともあります。 iDeCoの上限の見直しは、iDeCoが70歳まで・月6.2万ににまとめています。

家族と住宅ローンの3つ(⑤〜⑦)

⑤ 別居の親の扶養:同居は条件ではありません

「一緒に住んでいないから無理」と思っている人が多い項目です。 扶養控除の条件は「生計を一にすること」で、同居は条件ではありません。 仕送りをしている、施設の費用や医療費を負担している、といった場合は対象になり得ます。

70歳以上の親(老人扶養親族)なら、控除額は別居で48万円、同居で58万円です。 親の所得の要件は、2026年分は合計所得62万円以下です。 年金だけで暮らしている65歳以上の親なら、年金収入172万円以下が一つの目安です。

例えば、所得税の税率10%のスタッフが別居の親を扶養に入れると、所得税は48万円×10.21%(復興特別所得税込み)で約4.9万円下がります。 税率33%の理事長なら約16万円です。住民税も別に下がります。 くわしい判定のしかたは、医療法人の理事長が見落とす扶養控除で説明しています。 兄弟で同じ親を重ねて扶養には入れられないので、誰が入れるかを決めておいてください。

⑥ 配偶者・子の年収:「103万円」はもう古い線です

動画でいちばん強調しているのが、ここです。 家族の年収を「103万円まで」という昔の感覚で決めていると、控除を取りこぼします。 2026年分の線は、次のとおりです(収入が給与だけの場合)。

家族2026年分の年収の線受けられる控除
配偶者・扶養親族136万円以下配偶者控除・扶養控除
配偶者136万円超〜207万円以下配偶者特別控除(段階的に減る)
19歳〜22歳の子など136万円超〜197万円以下特定親族特別控除(段階的に減る)

2025年分は、それぞれ123万円・201万5,999円・188万円でした。 去年は扶養から外れていた家族が、今年は入ることがあります。 大学生の子がアルバイトを増やした年も、すぐにゼロにはなりません。 子の年収と控除額の段階は医学部・歯学部の子のバイト代はいくらまでに、パートのスタッフ本人の働き方は年収の壁178万円にまとめました。 健康保険の扶養は、税金とは別の線です。

院長・理事長ご自身の配偶者控除

配偶者控除と配偶者特別控除は、本人の合計所得が1,000万円を超えると受けられません。 所得の高い院長・理事長は、配偶者の年収を抑えても控除はつきません。 また、個人開業の医院で配偶者を青色事業専従者にしている場合も、配偶者控除の対象外です。 配偶者の給与をいくらにするかは、医療法人の配偶者給与で考え方を書いています。

⑦ 住宅ローン控除の2年目以降:税務署からの書類を捨てない

住宅ローン控除は、1年目は本人が確定申告をします。 2年目からは、年末調整で受けられます。 ただし、書類を出さなければ医院には分かりません。家を買ったことを、医院は知らないからです。

必要なのは、税務署から届く「住宅借入金等特別控除申告書」(下半分が控除証明書)です。 2年目の秋に、残りの年数分がまとめて届きます。 これに、銀行が出す年末残高等証明書を添えます。 銀行が税務署に残高のデータを出している方式(調書方式)なら、銀行の証明書は要りません。届いた申告書に残高が印字されているかで見分けられます。

控除額は年に数十万円になることもあります。 まとめて届いた書類を1年目で捨ててしまうと、2年目以降に困ります。なくしたら、税務署で再交付を受けられます。 理事長の住宅ローン控除の考え方は、医療法人の理事長と住宅ローン控除をご覧ください。

おまけ:ワンストップ特例は、確定申告すると消えます

ふるさと納税をしたスタッフの多くは、ワンストップ特例を使っています。 寄附先が5団体以内で、確定申告をしない人なら、申請書を出すだけで済む仕組みです。

ところが、確定申告をすると、ワンストップ特例の申請は無効になります。 確定申告書に、ふるさと納税の寄附も全部書き直さなければいけません。

医院のスタッフで多いのが、医療費控除で初めて確定申告をするケースです。 出産の年、子どもの矯正治療、家族の入院。医療費控除は年末調整ではできないので、確定申告になります。 そのときに「ふるさと納税はワンストップで済んでいる」と思って書かずに出すと、寄附した分は、ただの寄附になってしまいます。 医療費控除の範囲は医療費控除の記事に、限度額の考え方は理事長とふるさと納税にまとめています。

出し忘れたら:1月末までと、5年

年末調整が終わったあとで書類が出てきた場合も、取り戻す方法があります。

いつ気づいたかどうするか
翌年1月末まで医院で年末調整をやり直せます(源泉徴収票を渡す期限が1月末のため)。保険料・住宅ローン・扶養の異動などが対象です
それ以降本人が確定申告(還付申告)をします。その年の翌年1月1日から5年間出せます

還付申告は、本人が税務署に出すものです。医院は源泉徴収票を渡すだけで構いません。 何年も別居の親を入れていなかった、というスタッフがいれば、さかのぼれる分があるかもしれないと伝えてあげてください。

院長が今やること

  1. 配布物にチェック表を付ける。上の7つの表を印刷して、申告書と一緒に渡します。「今年は扶養の線が変わった」と一言添えてください。
  2. 証明書は後出しでよいと伝える。締切に間に合わない証明書は、翌年1月末まで受け取れます。「出せないから書かない」を防ぎます。
  3. 転職してきたスタッフには、すき間の月を聞く。前の勤務先の源泉徴収票と一緒に、国民年金・国保を払った月がないか確認します。
  4. 院長ご自身の分から見直す。理事長は医療法人の年末調整で、個人開業の院長は確定申告で、同じ7つを確認してください。保険の見直しも、自分の分からです。

控除の取りこぼしを拾っても、医院の負担は1円も増えません。 それでもスタッフの手取りは増えます。案内の手間だけでできる、小さな待遇改善です。 年末までに院長個人で確認したいことは、理事長が年末までに確認したい、個人の節税チェックリストにまとめています。

スタッフの年末調整、改正に合った形になっていますか。

今年の年末調整は、扶養の線と生命保険料控除が変わる改正の年です。 配る書類と回収のしかたが改正に合っているか、院長・理事長ご自身の控除に取りこぼしがないかを確認いたします。 過去にさかのぼって取り戻せる分があるかも、あわせてお伝えします。

無料相談を申し込む
LINE

9つの質問で、先生の医院で「できそうな節税」だけを選び出します。

LINEにご登録いただいた先生に、限定ページ「医療法人の節税チェックリスト(84項目)」をお送りしています。

9つの質問に答えるだけ(約2分)で、84項目の中から先生の医院でできそうなものだけが残る「かんたん診断」付き。

結果からそのまま解説記事に飛べて、チェックした内容はスマホに残ります。

LINEで、節税チェックリスト84項目を受け取る

※ こちらから営業のご連絡をすることはありません。


※ 決算書などの資料は、セキュリティのためLINEではお送りにならないでください。

個別のご相談はお問い合わせフォームからお願いします。

最終更新:2026年10月31日

この記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の制度・金額は執筆時点(2026年10月)の法令等と国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」等にもとづくもので、その後の改正等により変わる場合があります。実際の年末調整・申告にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
税理士・行政書士 山下久幸

税理士・行政書士山下 久幸

福岡で税理士事務所を営む。医療法人の設立・税務と、資産形成・相続サポートを専門とする。

税理士と行政書士の資格を一人で保有し、法人化の判断から認可申請、設立後の顧問、相続の設計までを一貫して担当している。