税金と社会保険料を払えずに倒産した会社が、2026年は1月から8月までで181件ありました。 前の年の同じ時期より58.7%多く、2025年1年分の160件を、8月の時点で上回っています。
倒れた会社の6割以上は、負債1億円未満の小さな会社です。 赤字で傾いた会社ばかりではありません。 利益は出ているのに、納める日にお金がない。税理士の現場で、よく見る形です。
医院も同じです。自費の消費税、スタッフから預かった源泉所得税、夏と冬に来る予定納税。 どれも金額は前もって分かっているのに、通帳の中で運転資金と混ざっていると、気づいたときには使っています。
この記事では、医科・歯科の院長向けに、納税用の口座を分けて、毎月いくら移せばいいかを計算例つきで書きます。 最後に、それでも払えないときの手続きも書いておきます。
この記事の内容を、動画でも解説しています。
この記事の結論
- なぜ利益が出ている医院でも、税金が払えなくなるのですか。
- 納税に回すはずのお金を、運転資金として使ってしまうからです。自費の入金には消費税が、スタッフの給与からは源泉所得税と社会保険料が含まれています。同じ通帳にあると、残高はすべて「使えるお金」に見えます。
- 毎月いくら積み立てればいいですか。
- 前の期に納めた税金の年額を12で割った額が出発点です。源泉所得税を年2回にまとめて納めている医院は、毎月天引きした額をそのまま移します。自費が伸びている年は、その分を上乗せします。
- それでも払えないときは。
- 納期限から6か月以内に、税務署や年金事務所へ相談してください。「換価の猶予」が認められれば、原則1年以内の分割で納められ、その間の延滞税は年9.1%から年1.3%(2026年)まで下がります。黙って放置するのがいちばん高くつきます。
税金滞納の倒産が、8か月で前の年を超えました
東京商工リサーチが2026年9月に公表した数字です。 「税金滞納」には、法人税や消費税だけでなく、社会保険料の滞納も含まれています。
| 項目 | 2026年1月〜8月 |
|---|---|
| 税金滞納(社会保険料を含む)による倒産 | 181件(前年同期より58.7%増) |
| 8月だけで | 26件(前年同月より73.3%増) |
| 負債1億円未満の会社 | 116件(全体の64.0%) |
| 資本金1,000万円未満の会社 | 105件(全体の58.0%) |
| 破産で終わった会社 | 177件(全体の97.7%) |
いちばん下の行を見てください。ほぼすべてが破産です。 税金を滞納した会社は、立て直しの道がほとんど残りません。 帝国データバンクの集計でも、税金・社会保険料の滞納による倒産は2025年度に221件で、ここ10年で2番目に多い水準でした。
医療の世界も楽ではありません。 帝国データバンクによると、2026年1月から6月の医療機関の倒産は39件で、上半期として過去最多です。 内訳は診療所19件、歯科医院16件、病院4件。小さな医院が中心です。 歯科医院は1月から9月までに、倒産と休廃業をあわせて143件が姿を消しました。
医療機関の倒産の調査では、原因として物価高や人件費の上昇が挙げられています。 そのうち税金や社会保険料の滞納がからむものが何件あるかは、公表されている資料からは分かりません。 ただ、収入が伸びずに人件費と材料費が上がれば、最初に削られやすいのが「待ってくれそうな支払い」です。それが税金です。
原因は赤字ではなく、お金が混ざっていること
税金は、ある日いきなり請求されるものではありません。 消費税は受け取った額から計算でき、法人税は利益から、源泉所得税と社会保険料は給与から決まります。 前もって分かる支払いなのに、払えなくなる。 理由は、納税に回すはずのお金を、別のことに使ってしまうからです。
医院で起きる典型は、次の2つです。
歯科の例:矯正の入金で、通帳がふくらむ
矯正やインプラントの代金がまとめて入ると、通帳の残高が一気に増えます。 でもその中には、あとで納める消費税が入っています。 税込110万円の自費なら、10万円は消費税の分です(簡易課税なら、実際に納めるのはその半分ほど)。 そのお金で機器を入れたり、賞与を払ったりすると、決算の2か月後に慌てることになります。
医科の例:年2回の源泉所得税が、まとめて来る
スタッフが10人未満の医院は、源泉所得税を年2回にまとめて納める特例を使っていることが多いです。 1月から6月の分は7月10日、7月から12月の分は翌年1月20日に、半年分を一度に納めます。 手間は減りますが、6か月分の預かり金が通帳に残ったままになります。 夏の賞与と重なる7月に、これを払えない医院が出てきます。
源泉所得税と、社会保険料のうちスタッフが負担する分は、そもそも医院のお金ではありません。 給与から預かったお金です。 払う順番の考え方はお金が足りないとき、どこから払うかに書きましたが、 本当は、順番を考えなければならない状況に立たないことが大事です。そのための口座分けです。
医院が分けておくべきお金は5つ
医院で、まとめて出ていく税金・社会保険料を並べます。 どれもいつ・どのくらい払うかが、前もって分かるものです。
| お金 | いつ払うか | 医院での注意点 |
|---|---|---|
| ① 消費税 | 法人は決算から2か月以内、個人は3月31日。前の年の額が大きいと中間納付もあります | 保険診療には消費税がかかりません。自費の多い医院(矯正・インプラント・美容・自由診療)が対象です |
| ② 源泉所得税 | 原則は翌月10日。年2回の特例なら7月10日と1月20日 | 年2回の医院は、半年分を一度に払います。非常勤の先生への給与の分も入ります |
| ③ 予定納税・中間申告 | 個人の所得税は7月と11月。法人税は期首から8か月目の末日まで(どちらも前の年の税額が一定以上のとき) | 前の年の実績で、今年の分を先に払う仕組みです。好調だった翌年に効いてきます |
| ④ 法人税・住民税・事業税 | 法人は決算から2か月以内。個人の住民税は年4回(普通徴収の場合) | 保険診療の所得には事業税がかかりません。自費が多いほど事業税が増えます |
| ⑤ 社会保険料 | 毎月、翌月末に引き落とし | 毎月の口座振替なので、ためる必要はありません。ただし賞与の月は、賞与の分が翌月末に上乗せされます |
③の予定納税について、個人で開業している先生は一つ知っておいてください。 社会保険診療報酬支払基金からの入金は、すでに所得税が差し引かれています。 予定納税は、前の年の申告で納めた税額(差し引かれた分を除いた額)をもとに計算されます。 個人開業医の事業税の考え方は個人開業医の事業税に、 自費と消費税の関係は自費が1,000万円を超えたらに書いています。
毎月いくら移すか|歯科と内科の計算例
いちばん簡単で外れにくいのは、前の期に実際に納めた額を12で割る方法です。 申告書を見れば、数字はすべて載っています。
例1:自費の多い歯科(医療法人・3月決算)
例えば、自費が年3,000万円(税込)、消費税は簡易課税、スタッフ7人の歯科医院で考えます。
| お金 | 前の期の年額 | 払う時期と金額 | 毎月移す額 |
|---|---|---|---|
| 消費税 | 約136万円 | 11月末に中間 約68万円、5月末に確定 約68万円 | 約11.4万円 |
| 法人税・住民税・事業税 | 例えば240万円 | 11月末に中間 約120万円、5月末に確定 約120万円 | 20万円 |
| 源泉所得税(年2回) | 月6万円×12か月=72万円 | 7月10日に36万円、1月20日に36万円 | 6万円 |
| 合計 | 約37.4万円 → 月38万円 | ||
消費税は、税込3,000万円の自費に含まれる消費税(約272.7万円)に、医業のみなし仕入率50%を当てはめた額です。 仕組みは簡易課税と本則課税をご覧ください。
この医院が6月から月38万円を移し始めると、残高はこう動きます。
| 月 | 入れる | 払う | 月末の残高 |
|---|---|---|---|
| 6月 | 38万円 | 38万円 | |
| 7月 | 38万円 | 源泉 36万円 | 40万円 |
| 8〜10月 | 毎月38万円 | 154万円 | |
| 11月 | 38万円 | 中間 188万円 | 4万円 |
| 12月 | 38万円 | 42万円 | |
| 1月 | 38万円 | 源泉 36万円 | 44万円 |
| 2〜4月 | 毎月38万円 | 158万円 | |
| 5月 | 38万円 | 確定 188万円 | 8万円 |
1年が回ります。ポイントは大きな納付が終わった翌月から始めることです。 いまが10月なら、11月の中間納付はいまの口座から払い、12月から始めてください。 12月に始めても、同じように1年が回ります。
中間納付は前の期の実績で決まりますが、確定の納税は今期の実績で決まります。 自費が前の期より増えていれば、5月の確定納付は表より大きくなります。 毎月の試算表で自費の累計を見て、半年に1回、移す額を見直してください。
例2:保険診療が中心の内科(個人開業)
自費がほとんどなく、消費税を納めていない内科の院長です。 ためるのは、院長個人の所得税と住民税が中心になります。
| お金 | 前の年の年額(例えば) | 払う時期 |
|---|---|---|
| 所得税 | 240万円 | 予定納税 7月と11月に80万円ずつ、3月15日に確定 |
| 住民税 | 120万円 | 6月・8月・10月・1月に30万円ずつ |
| 年の合計 360万円 | 毎月30万円 | |
個人の先生は、7月と8月、11月に支払いが固まります。 月30万円ちょうどだと11月に少し足りなくなるので、始めるときに1か月分ほど多めに入れておくと安心です。 また、医療法人と違って事業のお金と生活費が同じ財布になりやすいので、口座を分ける効果はむしろ大きいです。
口座の分け方と、守るルール
口座を分けるだけでは、お金に鍵はかかりません。 「納税以外には使わない」と決めて、使いにくい形にしておくことが大事です。方法は3つあります。
| 方法 | やり方 | 向いている医院 |
|---|---|---|
| 別の普通預金+自動振替 | 保険の入金日の翌日に、決まった額を自動で移す | まず始めたい医院。いちばん手軽です |
| 定期積金 | 毎月決まった額を積み、満期日にまとめて受け取る | つい使ってしまう医院。満期日を納付月の前月に合わせます |
| 納税準備預金 | 納税のための預金。引き出しは原則として納税のときだけ | 扱っている金融機関で。仕組みは窓口で確認してください |
動画でもお話ししたとおり、私の顧問先には「年間の納税額がこれくらいになるので、毎月この額を定期積金で積んでください」とお伝えしています。 自動で引き落とされた残高は、もう運転資金として見なくなります。残ったお金で医院を回す。この感覚が身につきます。
守るルールは3つです。
| ルール | |
|---|---|
| ① | 手作業にしない。毎月の自動振替か積金にして、「今月は余裕がないから移さない」をなくす |
| ② | 出口もその口座にする。e-Taxのダイレクト納付や振替納税の引き落とし口座を、納税用の口座にしておく |
| ③ | カードや公共料金の引き落としは、つながない。ほかの支払いに使えない形にしておく |
「口座を分けたら、運転資金が足りなくなる」という声もよく聞きます。 それは、いまの医院の本当の手元資金が、それだけしかないということです。 理事長の報酬が高すぎないか、借入の返済が重すぎないか。そこを見直すのが先です。 報酬の決め方は医療法人の役員報酬はいくらにすべきかに、 納税資金の借入や資金繰り表の作り方は医院の資金繰りを楽にする、最初の一手に書いています。
それでも払えないときは、6か月以内に相談
どうしても納期限に間に合わないときに、いちばんやってはいけないのは黙って放置することです。
納期限を過ぎると督促状が届きます。 督促状を出した日から10日を過ぎても納めないと、税務署は財産を差し押さえられる状態になります。 差し押さえの対象には預金や売掛金も入ります。医院の売掛金にあたるのは、支払基金や国保連から入る診療報酬です。 預金が差し押さえられると、銀行の借入にも影響が出て、一気に立て直しが難しくなります。冒頭の「ほぼすべてが破産」は、この流れです。
その前に、税務署へ相談してください。使える仕組みがあります。
| 換価の猶予(申請) | 納税の猶予 | |
|---|---|---|
| どんなとき | 一度に払うと、医院の経営が続けられなくなるおそれがあるとき | 災害、病気やけが、休業・廃業、事業の大きな損失などで払えないとき |
| いつまでに | 納期限から6か月以内に申請 | 猶予を受けたいときに申請 |
| 主な条件 | 納める意思が誠実であること、ほかに滞納がないこと | 上の事実があり、一度に払えないこと |
| 期間 | 原則1年以内(やむを得ない場合は最長2年まで延長あり)。毎月の分割で納めます | |
| 担保 | 原則必要。ただし猶予額100万円以下、または期間3か月以内などなら不要 | |
「事業の大きな損失」は、直前1年の損益が、その前の1年の利益の半分を超える赤字になっている場合などをいいます。 申請は所轄の税務署に出し、e-Taxでも出せます。
効果がいちばん大きいのは延滞税です。 2026年の延滞税は、納期限から2か月までが年2.8%、それを過ぎると年9.1%です。 猶予が認められた期間は、年1.3%まで軽くなります。 例えば100万円を1年間放置すると延滞税は約8万円ですが、同じ1年をまるごと年1.3%で計算すれば1万3千円です。 ただし軽くなるのは申請した日以後なので、早く申請するほど得です。 延滞税・加算税の全体像は加算税と延滞税の早見表をご覧ください。
厚生年金保険料などにも「換価の猶予」「納付の猶予」があり、換価の猶予は納期限から6か月以内に年金事務所へ申請します。 猶予期間中の延滞金は一部が免除されます。 医師国保・歯科医師国保に加入している医院は、その保険料の扱いを組合に確認してください。
院長が今月やること
動画の最後でお話しした3つを、医院向けに置き換えます。
- これから6か月の納税額を書き出す。消費税の中間、法人税の中間、予定納税、源泉所得税、賞与月の社会保険料。申告書と給与台帳があれば出せます。
- 現預金の残高を、毎月(できれば毎週)見る。クラウド会計なら通帳の残高がすぐ見られます。保険の入金は2か月遅れなので、来月の入金額もあわせて見てください。
- 納税用の口座を作り、毎月の自動振替を設定する。額は「前の期の年税額÷12」。始めるのは、次の大きな納付が終わった翌月からです。
1年後、2年後に払えなくなってから始めても遅いのです。 税金は余ったお金で払うものではありません。先に分けて、残ったお金で医院を回す。 これが、院長がいちばん安くできる資金繰り対策です。
毎月いくら分ければいいか、申告書から計算します。
前の期の申告書と給与台帳があれば、消費税・法人税・源泉所得税・予定納税をまとめて、 毎月移す額と、始める月をお出しします。 すでに納付が苦しい先生は、猶予の申請を含めて、払える形に整理するところからご一緒します。 税理士には守秘義務があります。そのままお話しください。
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最終更新:2026年10月23日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。記載の件数・制度・延滞税の割合は執筆時点(2026年10月)の公表資料にもとづくもので、計算例は前の期と同じ税額が続くと仮定した概算です。実際の積立額や猶予の申請にあたっては、税務署・年金事務所および税理士等の専門家にご確認ください。