「顧問の先生が勧めてくれた節税だから、大丈夫だと思っていました」 税務調査で否認されたあと、院長からよく聞く言葉です。
2026年10月、人気バンドのメンバーが代表を務める会社が、3年間で約5億8,000万円の申告漏れを指摘されたと報じられました。 会社側は、当時の顧問税理士から「適法な取引」と説明を受けていたそうです。 それでも否認され、追徴税を払ったのは会社でした。
医院にも、同じような「大きな節税」の話は持ち込まれます。 勧めてくるのが税理士でも、知り合いの院長でも、否認されたときに払うのは医療法人か、院長ご本人です。
この記事では、否認されると何が上乗せされるのか。 そして、話に乗る前に聞いておきたい5つの質問をまとめます。
この記事の内容を、動画でも解説しています。
この記事の結論
- 「申告漏れ」は、脱税のことですか。
- 違います。経費になると思っていたものが認められなかった、というのも申告漏れです。ただし、悪意がなくても否認されれば、本来の税金に加えて過少申告加算税(原則10%)と延滞税がかかります。隠していたと判断されると35%です。
- 税理士に勧められた節税なら、責任は税理士にありますか。
- 税金を払うのは、医療法人か院長です。申告書を出すのは納税者だからです。「税理士に任せていた」というだけでは、加算税を外してもらえる理由には、原則なりません。
- どう見分ければいいですか。
- 仕組みを自分で説明できない節税、先に大きなお金が出ていく節税には、手を出さないでください。話に乗る前に、この記事の5つの質問をしてみてください。答えがあいまいなら、やめておくのが安全です。
「申告漏れ」と「脱税」は、まったく違います
まず、報道の中身を事実だけ整理します。
| 項目 | 報道の内容 |
|---|---|
| 取引 | 当時の顧問の税理士法人側が用意した会社の株を、約5億8,800万円で取得。配当を受けたあと、価値が下がった株を代表者個人に150万円で売却 |
| 経理 | 取得額と売却額の差、約5億8,650万円を損失として計上 |
| 国税局の判断 | 不当に税負担を減らす取引だとして、損失を認めなかった |
| 追徴税額 | 過少申告加算税を含めて約5,300万円。会社は納付済み |
| 会社側の説明 | 隠したり偽ったりしたという指摘はなく、重加算税はかかっていない |
つまり、これは「脱税」ではなく「申告漏れ」の話です。
申告漏れは、税務署と考えが違った結果も含みます。 「これは経費になると思っていた」「この年の費用だと思っていた」。 調査で「それは認められません」「それは来年の分です」と言われれば、申告漏れです。 医院なら、保険診療の売上の計上時期のずれが典型です。
脱税は、わざと隠すことです。 自費の現金を帳簿に載せない。ありもしない外注費を作る。領収書を書き換える。 これを隠蔽・仮装(いんぺい・かそう)といい、重加算税の対象になります。 医院でどこが危ないかは、重加算税は7年さかのぼるに書きました。
天と地ほどの差があります。 ただし、脱税でなくても、否認されればお金はかかります。ここが今回の本題です。
否認されると、何が上乗せされるか
否認されると、払わなかった税金を納めるだけでは終わりません。 上に乗るものがあります。
| 上乗せされるもの | 性格 | 率 |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 罰金にあたるもの | 原則10%。多い部分は15% |
| 重加算税 | 隠していたと判断されたとき | 35%(申告していなければ40%) |
| 延滞税 | 利息にあたるもの | 2026年は年2.8%。納期限から2か月を過ぎると年9.1% |
延滞税の年9.1%は、医院の借入の金利より、はるかに高い率です。 期限内に申告していれば、延滞税の計算はおおむね1年分で打ち切られます。 それでも、3年前の節税が否認されれば、3年分の本税に加算税と延滞税がまとめて来ます。 国税だけでなく、法人の住民税なども、あとから追加で届きます。
率の細かい決まりや、同じ300万円の不足でいくら違うかの試算は、 追徴されたら、いくら払うのかにまとめています。
節税のために払ったお金は、もう手元にありません。 そのうえで否認されると、減ったはずの税金を、加算税と延滞税を付けて払うことになります。 節税どころか、何もしなかったときより手元のお金が減ります。
医院に持ち込まれやすい「大きな節税」
顧問先でよく見る、オーソドックスな節税があります。 役員報酬の決め方、社宅、出張日当、退職金。 どれも、法律や通達に沿って、もともと必要な支出を経費にするものです。
注意してほしいのは、金額が大きく、仕組みが複雑なものです。 医院に持ち込まれやすいのは、次のような形です。
| 形 | 危ないところ |
|---|---|
| 帳簿の上だけで損が出る取引 | お金がほとんど動かないのに、大きな損失や経費だけが計上される。今回の報道もこの形です |
| MS法人への高すぎる委託料 | 家族が役員のMS法人に、相場を超える委託料や賃料を払う。超えた部分は経費と認められないおそれがあります |
| いくつもの会社を通す取引 | 株の売買や配当を組み合わせて、どこかで損失を作る。1つずつは普通でも、全体で見られます |
| 院長個人との売り買い | 法人の資産を院長に安く売る、院長から高く買う。法人と個人の両方で問題になります |
| 海外法人・暗号資産を使うもの | 中身が見えにくく、一気に金額が大きくなります |
歯科の例:MS法人への委託料
例えば、自費の矯正とインプラントが伸びた歯科の医療法人があるとします。 「奥さまのMS法人に、受付と技工物の管理と材料の発注をまとめて委託すれば、法人の利益を移せます」と勧められた。
MS法人そのものは、普通に使われている形です。 問題は委託料の額です。実際の仕事に見合わない額なら、超えた部分は否認されます。 また医療法人は、役員や親族の会社との取引のうち、事業費用が1,000万円以上で、かつ事業費用の総額の10%以上を占めるものを、毎年、県に出す書類で報告します。 大きな委託料は、税務署以外の目にもふれる、ということです。
医科の例:「機器を買えば全額経費」
内科の医療法人に、「この機器を買って貸し出す事業に出資すれば、今期3,000万円が経費になります」という話が来た。 診療に使う機器ではありません。どこにあるのかも、院長は見たことがない。
こういう話は、なぜ今期に全額が経費になるのかを、院長が自分の言葉で説明できるかどうかが分かれ目です。 説明できないなら、税務調査でも説明できません。
「税理士が勧めたから大丈夫」とは限りません
税理士は全国にたくさんいて、得意な分野も考え方も違います。 資格があることと、その節税が通ることは、別の話です。
それに、あまり大きな声では言われませんが、 節税の商品を紹介することで、紹介した側が手数料を受け取っている場合もあります。 節税商品は「商品」です。売る側の利益が、値段に乗っています。 そのお金で、いちばん確実にもうかるのは誰か。一度考えてみてください。
そして、いちばん大事なことです。 申告書を出すのは、医療法人か院長です。 追徴税を払う義務があるのも、勧めた人ではなく、納税者本人です。
過少申告加算税は、「正当な理由」があればかかりません。 ただ、最高裁は「正当な理由」を、本当に納税者の責めにできない客観的な事情があり、加算税をかけるのが不当または酷な場合と、狭く考えています。 専門家の説明を信じて進めた、というだけで外れることは、まず期待しないでください。
では、勧めた税理士が全部悪いのか。そうとも言い切れません。 取引を決めて、お金を出したのは医療法人です。 だからこそ、決める前に、院長が自分で確かめる必要があります。
やる前に聞く5つの質問
大きな節税を勧められたら、その場で決めずに、次の5つを聞いてください。 できれば書面で答えてもらってください。
| 質問 | 見るところ | |
|---|---|---|
| ① | なぜ経費になるのですか | 院長が、税務署の人に同じ説明をできるか。「みんなやっている」「大丈夫です」は答えではありません |
| ② | お金は、いつ・いくら出て、いつ・いくら戻りますか | 5年後か10年後か。戻ってきたお金は、その年の収益として課税されます |
| ③ | 戻ることは、誰が保証していますか | 保証がないなら、全額戻らない前提で考えます |
| ④ | 否認されたら、誰が何を負担しますか | 本税・加算税・延滞税は、まず医療法人が払います。勧めた側が補償する約束があるかどうか |
| ⑤ | あなたは、紹介の手数料を受け取りますか | 受け取ること自体が悪いわけではありません。ただ、中立な意見かどうかは変わります |
①で納得できれば、検討してもいいと思います。 納得できない、理解できないなら、やらないほうがましです。 分からないものには、手を出さない。これがいちばん確実な守り方です。
保険の形をとる節税なら、「節税になります」と言われたらもあわせてご覧ください。
3,000万円払って900万円減らすより
節税商品は、最初に出ていくお金が大きいのが特徴です。 1,000万円、2,000万円、3,000万円。
例えば、所得が大きい医療法人で、上乗せの部分に約30%の税金がかかっているとします(医療法人の法人税率)。 3,000万円の節税商品を買うと、税金は約900万円減ります。
| 節税商品を買う | 買わずに税金を払う | |
|---|---|---|
| 出ていくお金 | 3,000万円 | 0円 |
| 税金 | 約900万円減る | 約900万円払う |
| 手元のお金 | 約2,100万円減る | 約2,100万円残る |
| 否認されたら | 約900万円の本税に、少なくとも約90万円の過少申告加算税と延滞税 | なし |
3,000万円は、いつ戻るか分かりません。戻る保証もありません。 それなら、900万円の税金を払って、残った2,100万円を医院に使ったほうが、お金は増えませんか。
歯科なら、ユニットの増設や歯科用CT。医科なら、内視鏡や、看護師をもう1人。 院長がいちばん詳しい分野に使うお金です。外の、見たこともない事業に預けるより、戻ってくる見込みははるかに高いはずです。
医院を経営する目的は、税金を減らすことではありません。医院のお金を増やすことです。 この考え方は、節税するなで詳しく書きました。
迷ったら、別の税理士に聞いてください
最後に、院長が今やることです。
- いま進めている節税を、1枚に書き出す。何に・いくら払い・いつ戻るか。院長が説明できない行があれば、それが確認するところです
- 新しく勧められたら、5つの質問をする。答えは書面で。その場で契約しない
- お金がほとんど動かず、損失だけが大きく出る話は断る。今回の報道と同じ形です
- 判断に迷ったら、利害のない第三者に見てもらう。勧めた本人に、もう一度聞くだけでは足りません
3,000万円払って戻ってこないより、相談料を払ってやめるほうが、ずっと安くすみます。 すでに実行してしまったものに心当たりがあるなら、調査で修正申告を勧められたときの考え方も先に読んでおいてください。
節税は、したほうがいいです。 でも、よく分からない節税、金額が大きい節税、先にお金をたくさん出す節税は、立ち止まってください。 否認されたときに払うのは、勧めた人ではなく、先生の医院です。
勧められた節税、契約する前に見せてください。
提案書や契約書を拝見して、なぜ経費になるのか、否認されたら何が起きるのか、先生の医院に本当に必要かを、利害のない立場でお伝えします。 顧問先でなくても結構です。すでに実行したものの点検も承ります。
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最終更新:2026年10月31日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の取引の税務上の取扱いや調査の結果を保証するものではありません。記載の制度・税率は執筆時点(2026年10月)のものであり、延滞税の割合は毎年見直されます。実際のご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。